耳の聞こえない私がスタバで働くまで 挑戦重ねつかんだ採用 筆談や指さし、静かな接客と笑顔で届けるぬくもり
長野市のスタバで働き始め3年 筆談や指さしで接客
「I am Deaf わたしは耳がきこえません」。長野県長野市のスターバックスコーヒー長野川中島店のレジに立つ内田恵菜さん(36)=長野市=は、来店客に手書きのメッセージボードを見せる。ドリンクなどの注文は、レジに置いた指さし用のメニューで確認する。働き始めて3年。「ありがとうございます」を意味する手話と笑顔で、訪れた客に心温まる一杯を届けている。 【写真】来店客に手書きのボードを見せる内田さん
2歳で両耳が聞こえないと判明
2歳で両耳が聞こえないことが分かった。普段は補聴器をして過ごすが、笛やタイマーなどの高い音や話し声は聞き取ることができない。
支援してくれたボランティアが腱鞘炎に…心痛めた大学時代
高校生まで県長野ろう学校(長野市三輪)で学び、その後、日本福祉大(愛知県)に進学。大学では、耳が聞こえる「聴者」が教授の話を手書きで伝える「ノートテイク」の支援を受けたが、設備の関係で、いつも前方に座る必要があった。聴者の友人の隣に座れない。腱鞘(けんしょう)炎になったノートテイクの学生ボランティアの姿にも心を痛めた。
葛藤の末に退学
「これほどのデメリットの中、講義を受け続けなくてはいけないのか」。支援を受ける必要がある自分自身にも落ち込み、葛藤の末、3年生で退学を決めた。
繰り返した転職 再挑戦でつかんだ採用
長野県内外で転職を繰り返す中、高校時代に毎週通っていたスターバックスが浮かんだ。耳が聞こえない自分に向け、ゆっくりと話してくれたパートナー(店員)の姿。学生時代、嫌なことも忘れられる居場所の一つだった。10年前に県内の店舗で面接を受けた時は採用を見送られたが、「好きなことを仕事にしたい」と再挑戦を決意。2021年12月、4店舗目の面接だった長野川中島店で、ついに採用が決まった。
観察力生かし接客
1年目は裏で仕込みなどの業務に励んだ。氷の減りにいち早く気付いて補充したり、夕方店内に陽が差せばブラインドを下げたり。耳が聞こえないからこそ磨かれた観察力を生かし、2年目はレジでの接客に挑んだ。最初は他の店員に代わるよう言われ、指さしでの注文に応じてもらえなかったことも。筆談も使い、積極的にコミュニケーションする姿勢を大切にしてきた。