ドジャース・山本由伸が誇るMLB屈指の能力とは!? 大型契約で求められる次なる”進化”は…?【コラム】
3球種での行き詰まりからの球種追加
しかし、この3球種だけでは足りなかった。スプリットとカーブはその威力をいかんなく発揮していたが、これらの球種をセットアップする役割を果たすフォーシームが低め~真ん中に集まってしまい、長打の原因となってしまっていた。 NPBでは低めの制球が重視されるが、山本のような低リリースである程度の縦変化があるフラットなフォーシームはメジャーでは高めに投げ空振りを奪う球種として扱われる。そこのギャップに苦労したのかもしれない。 また、3つしか引き出しがない+スプリット/カーブは繰り返しストライクが取れる球種ではないことから、どれか1つが崩れるとすべてが崩れてしまっていた。
メジャーレベルを経験した山本由伸の”変化”
しかし、ドジャースと山本も手をこまねいていたわけではない。5月に入るとカッター、シンカー、スライダーを本格的に使い始めた。全体の割合としてはそれぞれ1桁%に収まっているが、それぞれの球種がそれぞれの役割を果たした。
左打者への武器となるのは…
カッターは主に左打者の内角に食い込む役割を果たした。左打者への投球箇所を見ると、フォーシームを外角へ、カッターを内角へ、スプリットを真ん中~外角へ落とすというアプローチが見えてくる。 シンカー、スライダーはほぼ同じ時期に導入され、右打者に対するゾーンの横を活かすことに利用された。フォーシームと組み合わされたシンカー/スライダーはシンカーを内角、スライダー/フォーシームを外角へ投げることで空振りを奪うアプローチを確立した。
来シーズンの秘密兵器になり得る…?
特にスライダーは平均以上の球速と横変化により、48球とサンプルは小さいが被打率.158, 被長打率.211, SwgStr% 20.8とスプリットと同等かそれ以上に効果的な球となっていた。
今後はサイ・ヤング賞受賞が至上命題…?
2024年は山本にとってMLB適応の年となった。故障によりイニング数は少ないながらも良い成績、良いポストシーズンでの活躍を見せることができた。 一方、12年$325Mという契約を結んだ投手ならより高みを目指せるはずだ。 山本の前に投手史上最高契約額記録を保持していたヤンキースのゲリット・コールは、現在9年契約の5年目が終了した段階だが、オールスター選出3回、サイ・ヤング賞1回、サイ・ヤング賞5位以内3回、MVP得票2回の実績を残している。 山本の契約が成功となるには、山本の全盛期となる今後7年が勝負だ。その中で、サイ・ヤング賞の受賞は最低でも1度は求められてくるところだ。 ■フォーシームの使い方 山本のフォーシームはフラットな軌道で打者に到達する。縦変化量は少ないが、山本の比較的小さな体から生まれる低いリリース高により、平均的なMLB投手より投げあがる形になり、アッパースイングの打者が空振りをしやすい球となっている。 事実、山本のフォーシームによる空振りは、ゾーン真ん中から上が多かった。この性質を活かすために無理のない範囲でフォーシームを高めに投げ、空振りを誘発するべきだ。 ■スライダーの活用 前述の通り、山本のスライダーはMLBでも優秀な部類に入る。レギュラーシーズンでは48球しか投げなかったが、ポストシーズンではアーロン・ジャッジ、JD・マルティネス、フェルナンド・タティスJr、ピート・アロンゾなど名立たる打者から三振を奪う球となっていた。 フォーシーム/カーブ/スプリットを投球の基幹としているところに、突然スライダーが放られる意外性の面もあるが、効果的な球であることは確かだ。 MLBにおいて投手の成績を向上させる際に最も用いられる方法が、その投手のベストピッチを頻繁に投げさせることだ。 ドジャースのリリーバーであるエヴァン・フィリップスなどは移籍後にスイーパーの投球割合を約2倍にすることでリリーフエースとして覚醒した。 山本はキャリアを通してスライダーは腕に馴染まないとして敬遠していたことを考慮する必要があるが、スライダー全盛のMLBにおいてスライダーをある程度活用するのは、もう一段上を目指すには必須となりそうだ。 ■プレーオフでの柔軟な起用 ドジャースは2025年シーズンから6人ローテを採用するとしており、山本がMLB主流派の中4,5日ローテに適応するのは遠い将来となりそうだ。 一方で、MLBのプレーオフでは先発投手が中3、中4と柔軟に起用されることがある。 山本のような若いエース級ピッチャーはチームの運命を決める試合(シリーズGame7や後がない試合)で起用できるとチームとしてはありがたい。 さらには今季のワールドシリーズのウォーカー・ビューラーのようなリリーフ起用も想定される。そのような山本も見てみたいところだ。
ベースボールチャンネル編集部