福大の地域創造研究所企画 「鮭のぼり」アートに 福島県双葉郡の中学生ら描く 11日から伝承館で作品展
古里への思いや復興への願いを遡上(そじょう)する鮭(サケ)に込めて―。福島大芸術による地域創造研究所は「鮭アートのぼりプロジェクト」を進めている。双葉郡の中学校やイベント会場を訪ね、「鮭のぼり」の作品を募ってきた。東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)で11日から創作の成果を展示する。関係者は「海から川に戻るサケに込めた参加者の思いを感じてほしい」と願っている。 昨年12月下旬、いわき市錦町にある双葉中仮設校舎で1~3年生13人が作品作りに取り組んだ。福島大人間発達文化学類芸術・表現コースの学生が手がけた下絵を、黄やオレンジなどの色で彩っていく。サケから転じて日本酒やイクラのすしを描くなど、同じ作品は一つもない。 2年生で大熊町出身の高橋梨奈さん(14)は海を思わせる青色を選んだ。母なる川から海に出て育ち、産卵のために川に戻るサケの習性に「古里に帰りたい」という願いを重ねた。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きた2011(平成23)年3月はまだゼロ歳。大熊町での記憶はなく、生家は再訪する前に取り壊した。
歳月がさらに過ぎれば風景も住民も移り変わる。古里で起きたことへの社会の関心や人々の意識が薄れる気がしている。「忘れてはいけない出来事を思い返し、未来への希望を感じる手掛かりになってほしい」と作品に込めた願いを口にした。 指導した研究所長の渡辺晃一さん(57)=人間発達文化学類教授=は「大人が求めそうな答えではなく、独創的に表現しようとしているのが素晴らしい」と生徒の生き生きとした表情に目を細めた。 研究所は原発事故直後に「コイが滝を登り切ると龍になる」という中国の故事にちなみ、被災地の復興や次世代の成長を願う「Koi鯉アートのぼりプロジェクト」に乗り出した。避難所で教室を開き、子どもたちと「鯉アートのぼり」を制作。国内外にも賛同を募り、これまでにフランスや中国など14カ国から4千点以上が寄せられた。 活動を続ける中で浜通りにより縁の深いモチーフを伝承館と探り、各河川で漁が盛んだったサケに着目。先人が守ってきた営みや郷土の豊かな自然に光を当てようと、鮭アートのぼりプロジェクトを昨年8月に始めた。経済産業省の補助事業「ハマカルアートプロジェクト」に採択され、木戸川漁協(楢葉町)の朝市や富岡町のイベントで参加を呼びかけてきた。