故郷は原発被災地 解体される自宅をカメラに収めた記者「何が起きたのか、知ってもらいたい」 #知り続ける
解体されるわが家 被災者の一人として“伝える”
原発事故からまもなく13年となる2024年2月、家族三世代8人が暮らしていた渡邉の自宅から無情な音が響いていた。重機のアームが家の壁に突き刺さり、大きな音を立てて剝がされていく。渡邉は母と共に現場を訪れた。母は解体される我が家をじっと見つめながら、呟いた。 「もう仕方ないんだなってあきらめつくね。パパはどんな思いかな…」。 いつか自宅に帰れるかもしれないという望みはなくなったが、渡邉は解体の様子をカメラで収めていた。 「原発事故によって何が起きて、何が奪われたのか。このことを広く知ってもらいたい」。 渡邉は今、地元のテレビ局の記者として原発事故の被災地を取材している。原発事故により、故郷の土地が奪われ、コミュニティが失われていくというかつてない現状を、当事者として伝えていくことが責務のように感じたという。
またここで暮らせるか、“安全な土”に埋もれるか
渡邉たちの故郷を巡っては、重い課題が浮上している。「中間貯蔵施設」で30年保管された除染土は、国は福島県外で最終処分すると定めている。施設へ運び込まれるのは1400万立法メートル、東京ドーム11杯分だ。このうちの94%は、様々な処理がされ、放射能レベルが低濃度の「安全な土」にすることができるという。国は1キロ当たり8000ベクレル以下の土を道路用の資材として再利用する方針だ。 再利用が進めば、渡邉の故郷は埋め尽くされることなく、またここで暮らすことができるかもしれない。進まなければ、故郷は行き場をなくした「安全な土」に埋め尽くされることになる。
“安全”だが不安…進まない除染土再利用
しかし、この土を受け入れるところは福島県外では1つも存在しない。環境省が行ったアンケート(2022年度)では除染土の県外での最終処分について県内では、約6割が知っていると回答した。しかし、県外は2割ほどにとどまっていて、県外の候補地からは反対の声が根強いのが事実だ。住民や国の両者を取材する渡邉はもどかしさを感じていた。 「住民にもこれまでの生活があるし、家族もいるし、納得して受け入れるには時間をかけた丁寧な説明が必要だと思うけれど、自分の故郷はどうなっていくのか…」。 国は2024年度内には国際原子力機関(IAEA)の評価を得た上で、除染土の最終処分や再生利用の基準を策定したいとしている。