セブン&アイ「コンビニ専業」「売上30兆」は成功するのか 気になる買収提案のゆくえ
コングロマリット・ディスカウントに悩まされてきた
日本企業の株価は、バブル崩壊以来30年の経済停滞で、全般に低くなっているといわれる。セブン&アイの株価も同様に、円安の進行などが影響して割安感が増している可能性がある。だからこそ、簡単に「買えるのではないか」と考える外資も出てくる。 欧米の投資家の間には「コングロマリット・ディスカウント」という考え方がある。リスク分散のために企業はポートフォリオを組んで事業多角化を図るが、異業種が組み合わさった多角化はシナジー効果が薄く、経営が非効率になるというものだ。そのため、多角化を行っている企業に対する投資家の評価は低く、株価が低くなってしまう。 セブン&アイは流通のマルチチャネルを目指したが、このコングロマリット・ディスカウントにハマってしまった。米国のモノいう株主、バリューアクト・キャピタル・マネジメントが、繰り返し事業をコンビニに絞れと提案していたのは、このコングロマリット・ディスカウントを脱し、正しく企業価値を評価してもらえるテーブルに着けと警鐘を鳴らしていたともいえる。 こうした事情もあり、セブン&アイはかつてM&Aで取得した、長期低迷が続く百貨店のそごう・西武を、2023年9月に米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却した。また、祖業であるスーパーのイトーヨーカ堂が総合スーパーの退潮により、慢性的な不振に直面。衣料品平場に大手アパレルのアダストリアが開発したブランド「FOUND GOOD」を導入するなど、立て直しに懸命だ。
「コンビニ一本足打法」は成功するか
10月10日には、2025年度中にセブン&アイの社名を「セブン‐イレブン・コーポレーション(仮)」に改名し、コンビニ専業となることを発表。イトーヨーカ堂や外食のセブン&アイ・フードシステムズ、専門店のロフト、赤ちゃん本舗などは、傘下の中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立し、そこに紐づけることになった。株式公開を目指し、2025年度中に戦略的パートナーを招いて持分法適用会社化するという。 コンビニ専業化はある意味一本足打法で、市場の急速な変化が起こった場合にもろいリスクもあるが、コングロマリット・ディスカウントの考えが株式市場を支配しているのならば、対応せざるを得ないだろう。持分法適用会社化くらいでは「徹底していない。ぬるい」と反発されるかもしれないが。 日本にコンビニは約5万7000店あるが、日本経済新聞の調べでは2022~23年度の2年連続で微減していることが明らかになった。飽和点に達し、人手不足もあって、より良い立地にリロケーションを図るとともに、売り上げの良い店に営業を絞る傾向が出ているという。 国内セブン‐イレブンの既存店売上高は、1%以内の微減ではあるが、6~9月まで4カ月連続で前年を割っている。反対に、競合のファミリーマートとローソンはこの間ずっと既存店売上高が前年を上回っており、3大チェーンでセブン‐イレブンのみが売り上げを落としている状況だ。 その理由には、セブン‐イレブンの商品が高くなったということがあるだろう。セブン‐イレブンは7月16日より「手巻きおにぎり」のツナマヨネーズとしゃけ(ともに138円)を手始めに、「うれしい値!」という消費者から見た安売り商品を売り出した。しかし、中には値段が変わっていないと思われる商品もある。9月末まで計270アイテムで展開しているが、値下げするなら徹底してもらいたいものだ。 また、9月3日から東京都・埼玉県・千葉県において、ドーナツをカウンター周りで復活させた。カレーパンの成功体験を生かして揚げたてを売りにしているものの、店員に聞くと、スタートダッシュは良かったが早くも失速している模様だ。 「7NOW」という宅配の仕組みを全国に広げて、ピザのデリバリーを始めるとの発表もあったが、深刻化する人手不足の問題を含めて、ドミノ・ピザなどに対抗できるか未知数だ。 この不振をどのように抜け出すか、今後の動向を注視したい。 (長浜淳之介)
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