カヌー世界王者「コーチなし、資金なし」22歳から競技にハマった40代女性の激流人生
営業職として働き、週末は友人と遊ぶ日常を送っていた高久瞳さん(42)。それは、「兄にあのときカヌーに誘われていなければ」続く未来でした。しかし、そこで人生は一変します。「川とカヌーがあればいい」生き方を歩む彼女の笑みは、とても穏やかで、凛としていました。(全3回中の1回) 【写真】荒々しい競技のアスリートとは思えない?OL時代の落ち着いた高久瞳さん ほか(全16枚)
■「ふつうの人生を歩む」と思っていたときに出合ったカヌー ── フリースタイルカヤックを始めたきっかけを教えてください。 高久さん:2004年の社会人1年目の夏、社会人のアウトドアサークルに所属していた兄に「おもしろいから一緒にやろう」と、誘われたのがきっかけです。軽い気持ちで行ったのですが、雄大な自然に囲まれ、 川の流れを間近に感じられて最高に気持ちよかったです。
サークルでは、カヌーの競技のひとつ「フリースタイルカヤック」に取り組んでいる人がいました。フリースタイルカヤックとは、川の流れのなかでカヌーに乗り、水車のように回転させたり、宙返りしたりして技の難易度を競う競技です。アクロバティックな演技をする姿に一瞬で心を奪われました。「私が求めていたのはこれだ!人生をかけて取り組みたい!」と心の底から思って。興奮して、その場で「フリースタイルカヤックを始めたいです」と言ったら、中古の道具を譲っていただけました。カヌーの中にはさまざまな競技があるのですが、私にとっては「カヌー=フリースタイルカヤック」なんです。
── フリースタイルカヤックにひと目ぼれだったのですね。もともと好きになったら一直線なタイプだったのでしょうか? 高久さん:まったく違います。それまでは、とくに夢中になるものはありませんでした。当時の私は、営業職として働く会社員でした。おぼろげな人生設計として「この先ずっと同じ会社で働いて、ごくふつうの人生を歩むんだろう」というイメージがありました。それが、すべてをカヌーに捧げるようになったんです。人生って何が起こるのかわからないです。