TM NETWORKが語る、音の世界と人間の喜怒哀楽が現れたトリビュートアルバム
田家秀樹によるTM NETWORK Liveレポート
田家秀樹によるTM NETWORK Liveレポート 何よりも驚かされたのはいきなり3人が登場したことだった。周年ライブにつきもののこれまでの時間を振り返った映像やそれを生かした演出があるわけでもない。特にアリーナツアーでは冒頭の映像がそのライブのヒントになっていたりする。そうした前置きもなくシルエットの3人の姿で始まった。曲は「Self Control」だ。TM NETWORKという名前がお茶の間にも浸透していく転機になったアルバムのタイトル曲。言いたいことも言えない、踊りたくても踊れない。何がそうさせているのか。思い切り笑って自分を取り戻せ。そんな一曲目に続いたのが、FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFÉ」で宇都宮隆が「ライブでやるのは30年ぶり」と話していた同じアルバムの中の「Maria Club」だった。作詞・小室哲哉、作曲が彼と木根尚登の共作。“闇夜の鎖”を引きちぎって夢を生み出す。「Self Control」と対になった曲のように思えた。 40周年ならではのシーンが出現したのはその後だ。1984年4月21日発売のデビューアルバム『RAINBOW RAINBOW』の中の「1974(16光年の訪問者)」が歌われる。スクリーンには当時のプロモーションビデオが流れていた。キャデラックやUFOが空を飛び、フランケンシュタインや狼男も登場する。プロモーションビデオすら珍しかった時代だ。彼らがデビュー時にライブよりも映像を重視したことは伝説だ。と言って約束された未来だったわけではない。限られた予算の中で自分たちの求めるファンタジーをどこまでポップに表現できるかという涙ぐましい知恵の結晶のような映像だった。こんなに「素」なライブがこれまであっただろうか。そう思わせてくれた最大の場面が「1974」を受けて木根尚登と小室哲哉が二人で歌った4曲目の「Carry on the Memories」だ。“ギターをかき鳴らしピアノを鳴らしリズムに合わせて歌う”“一人二人、楽器を置いて社会に飲み込まれていった”“こんなに大きな場所じゃなかった こんなにきれいに響く音じゃなかった”。あの時代にバンドを組むことがどういうことだったのか、どんな風に始まってどんな日々を過ごしてきたのか。タイトルになっている“Carry on”には“継承”という意味がある。思い出や夢を語り継いでここまで来た。ステージに戻って来て二人に拍手を送った宇都宮隆が歌ったのは木根尚登が書いたバラード「Confession ~告白~」だ。“うまく生きてくのは相変わらず下手だけど”というのは彼の率直な心境だったのかもしれない。3人がお互いの存在をリスペクトする。そんな微笑ましいコンサートがこれまであっただろうか。 40周年だから伝えたいこと、そして、この日だから出来たこと。コンサートは二つの柱で成り立っているように思った。彼らの音楽がテクノロジーの進歩と密接な関係にあることは容易に想像が出来る。その時代の器材では表現しきれなかったこと。中盤の柱だった「CAROL」組曲はそんな例だろう。88年に発売されTM NETWORK最大のヒットアルバムとなったアルバムの核となった7曲を全曲披露する。それも当時は考えられなかった生成AIを使って可能となった映像と一体になったストーリーとしてだ。ロンドンのビッグベンの鐘の音が会場に響き渡る。黄昏のロンドンの街並を背景にしたスクリーンにこう綴られる。「1988年、ぼくらがテキストで表現していた形状をAIが嚙み砕いて出来たものです」「歌詞とともにしばし僕らとCAROLの世界へ!」。曲ごとに映像が変わる。「A Day in the Girls Life」から「Carol’s ThemeⅠ」。石造りの美術館や落ち葉の舗道、誰もいない学校に忍び込むCAROL。ある日音を奪われてしまった少女が失われたものを探す迷宮。額縁の中にあったアルバム『CAROL』のジャケットが動いて宇都宮隆の口が動いて“奪われたメロデイーを取り戻すのは今”と「Chace in Labyrince」を歌っていた。 組曲の中でも音楽は多彩だ。ビートの効いたロックからクールなジャズ。9曲目の「Gia Corn Fillippo Dia」は16ビートのサンバだ。迷宮の中で開かれる絶望のカーニバル。小室哲哉がシンセサイザーの鍵盤を両手で叩いている。歌うことも踊ることも忘れてはいけない。森を流れる清流に夜明けの光が差し込んでいる。「In The Forest」から「Carol‘s ThemeⅡ」へ。夜空にオーロラが瞬きCarolは悪魔の手を振り切って古代都市から草原、渓流へ彷徨い続ける。“すぐそこに君がいる”。音楽は彼女に寄りそっている。ステージを縁取っていたオーロラの光が金色に変わりCarolは”音楽のある世界“へ戻って来る。しめくくりが「Just One Victory」だった。 組曲「CAROL」は88年の再現ではなかった。当時は不可能だった映像を使った新たな「人」の物語」として蘇った。なぜ今「CAROL」なのか。スクリーンにこう綴られた。“地球のあらゆる場所から音楽が消えています。今もこのあとも僕たちは音楽を奏で続けます。そして再び世界のどの場所でも人が奏でる音楽が満ち溢れることを願います” 。そう、「人が奏でる音楽」だった。CAROLはストリートミュージシャンが演奏するロンドンでBig Benを見上げていた。 こんなにコンセプチュアルな周年コンサートがあっただろうか。後半はそんなシーンの連続だった。打ち込みの4つ打ちに乗ってコンサートタイトルが点滅するインスツルメンタル「Coexistence」は阿部薫の髪を振り乱したドラムソロと北島健二の華麗なギターソロに変わってゆく。「Coexitsance」。つまり「共演」。人とテクノロジーの共演。ギターに木根尚登が加わり「Whatever Comes」が始まる。“どんな明日が来ようと”という言葉は「CAROL」の着地点のようだった。人とテクノロジーが共存するからこそ生まれ変わる音楽。デビューアルバムのタイトル曲「RAINBOW RAINBOW」に続くTKソロはその最たるものに思えた「Angie」。抽象的な音と光の共演。そして教会音楽や民族音楽のような生命感。小室哲哉の指と掌が魔術師のように鍵盤を踊っている。吹き上げる生火を受けた彼の姿は戦火の中にいるようだった。曲は「Get Wild Continual」に変わる。太いドラムと力強い演奏。北島健二のソロに合わせて両手を広げた宇都宮隆が踊っている。あの曲がこれだけ長い間鮮度を失わないのはそういう共存性あってこそではないだろうか。 エンデイングに向けて時間が遡ってゆく。曲は二作目のアルバム『Childhood‘s End』の中の「ACCIDENT」だ。もう子供でも少年でもない。40周年コンサートはあの頃に対しての答えでもあったのだろう。一瞬の無音の中で木根尚登の弾くピアノが流れる。うっすらとスモークが炊かれて最後の曲「Electric Prophet」になる。1984年12月に行われた最初のコンサートのタイトル曲。スタジオレコーディング音源としては85年のミニアルバム『Twinkle Night』にしか収録されていない。作詞は小室哲哉、作曲は彼と木根尚登。まさに3人の曲だ。ステージにはあの時と同じように3人しかいない。3人で始まったコンサートが3人の演奏で終わる。今の器材環境では求める音が表現できないとライブに消極的だったバンドの40年後のコンサートの締めくくりとしてこれ以上相応しい曲があっただろうか。電気仕掛けの預言者。当時、3人はどんな預言者をイメージしていたのだろう。自分たちの音楽がポップミュージックの未来を予言するようになると思っていたかどうか。3人の背後のステージに三つの額縁が下がってきた。そこに映し出されたのは地球だ。でも、丸い地球ではなく一部だ。誰もが地球の一部として生きている。“We are 21 Century Lovers」が「25 Century」に聞こえたのは気のせいだろうか。金色の紙吹雪の中に舞う中でステージを去った3人がそれぞれの額縁の中に収まって行った。流れてきたのはツアーのタイトル曲「inteligence Days」だ。「情報を共有してくれた」「人」への一人づつの感謝の言葉が綴られてゆく。最後のクレジットの中に「Dedicated to TEKKAN FUJII」という文字があったことに気づいた人もいたのではないだろうか。 <TM NETWORK リリース情報> ・TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM 2022年12月28日 発売 ・TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~ 2024年4月21日 発売 ・TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~STAND 3 FINAL~ 2024年7月10日 発売 ・TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~ 2024年9月25日 発売 <INFORMATION> 田家秀樹 1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。 「J-POP LEGEND CAFE」 月 21:00-22:00 音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。 OFFICIAL WEBSITE : OFFICIAL Twitter :@fmcocolo765 OFFICIAL Facebook : @FMCOCOLO radikoなら、パソコン・スマートフォンでFM COCOLOが無料でクリアに聴けます! →
Rolling Stone Japan 編集部