絵日記“つづ井さん”シリーズが大人気! 作者が自虐をやめた経緯を語る
トレードマークは胸にHAPPYと書かれたTシャツ。リュックを背負い、いそいそとオタク活動をしながら“前世からの友”と呼ぶ友人4人と趣味を全力で楽しむ姿を綴った絵日記“つづ井さん”シリーズが、ブレイクしている。作者はこの犬の着ぐるみ姿の、つづ井さん。 ――どのような経緯で、絵日記を描かれるようになったのですか。 つづ井:小さい頃から絵を描くのが好きで、好きな漫画やアニメのファンアートみたいなものを描いては友達とキャッキャしていました。私は文章を書くのがすごく苦手で。小学校の頃に日記の宿題が出た時、文章で説明できているのかわからず不安になり、図解の感覚でノートの端にイラストを書いて提出していたんですね。それが絵日記を描く趣味につながりました。公開するようになったのは2014年の10月から。Twitter (現X) で『腐女子のつづ井さん』を描き始めました。その1年後に、現在の担当編集者さんに「商業化しませんか」とお声がけいただいて。当時私は大学生で就職する会社もほぼ決まっていたので、すごく失礼な言い方なんですが、記念に作ってもらおうぐらいの気持ちでした。その後も会社員として働きながら、副業で絵日記を描き続けていました。 ――『腐女子のつづ井さん』に続き『裸一貫! つづ井さん』『老犬とつづ井』『とびだせ! つづ井さん』とシリーズ化され、現在は漫画家一本で活躍されています。初めて絵日記を公開してからちょうど10年経ちますが、絵日記にこだわる理由はなんでしょう。 つづ井:描いていて楽しいし、ちょっと自信もついてきたんですよね。大学生だったのが就職して、兼業で漫画を描き、老犬を介護するために仕事を辞めて実家に戻り、そして今は東京で一人暮らしをしながら漫画一本で生活をして。人生はそれなりにいろいろあったし、絵日記をやめるタイミングもなくずっと楽しく描いているうちに、10年経っていたという感じです。 ――伺いたいことがありすぎて、大渋滞してますが (笑) 、まず、いま目の前にいる素の姿のつづ井さんと、漫画に出てくるつづ井さんはかなり違いますが、どういうイメージであのビジュアルに? つづ井:とにかく身バレしたくなくて、当時の自分とは遠いビジュアルに描きました。幼なじみの“ゾフ田”、大学時代からの友人“オカザキさん”と“Mちゃん”、高校時代からの友人“橘”という友人が登場しますが、ゾフ田には「メガネを外さないで描いてくれ」と言われたんでそこだけは合っています。でもあとは適当に、描きやすい…というか線の少ない感じで描いてそうなりました。ちなみに“つづ井”という名前も、全然ゆかりのないところからつけました。 ――なるほど。メディアに出る時は、なぜ犬の着ぐるみを? つづ井:実はまだ、親や家族に仕事内容を詳しく話していないんです (笑) 。漫画とかイラストとかを描いてるよ、みたいなことはぼんやり伝えているんですけど、作品を見られるのが恥ずかしくて。良きタイミングを計っていたりもしたんですが、結局ズルズルと言い出せないまま。どうせ言うなら、いつかサプライズで、実は私でした! ってやりたいですね。 ――それも楽しそうですね。絵日記はついに実写化され、ドラマ『つづ井さん』の放送が始まりました。その経緯を教えてください。 つづ井:以前から実写化のお話はいただいていたんですが、私の日々の日記が自分の手から離れて、他人の手が加わってしまうのが怖くてお断りしていたんです。でも今回は担当編集さんから、一度お話を聞いてみませんかって提案がありまして。プロデューサーさんたちとお会いしてお話を伺ったら面白そうだと思ったし、私はこれを逃したら一生もうドラマ化とかはしないだろうなって思ったんです。それで、波に乗れ~! みたいな感じで思い切ってみました。さっきお話ししたように、絵日記を描くことに自信がついてきたので、他人に預けても自分が揺らぐような不安は、今は感じないだろうなとも思って。登場する友人たちにも相談したら「私たち役の俳優さんが存在するってこと?」ってすぐに面白がってくれました。 ――さすが“前世からの友”! つづ井:自分たちでもたまに、女子5人組ってあんまりいないよね、なんて話しますが、それぞれがハマっているもののジャンルは全員バラバラ。でも、たまに惑星の軌道みたいにお互いの推しのジャンルが近づく時期があって。バラバラでも近づいても、一緒にハマって大騒ぎしてくれるのはめっちゃありがたいです。そしてやっぱりオタクの私にとって、好きなことについて熱意を持って語っている人の話って面白いんですよ。それってすごく上手なプレゼンでもあって。私はそのプレゼンを受けるのが大好きなんですよね。 退路を断つ意味で自虐をやめる宣言をしました。 ――『腐女子のつづ井さん』の次に『裸一貫! つづ井さん』を出される時、それまでネタにしていた“「未婚で」「パートナーがおらず」「恋愛経験が極端に少ない」「女性」などの自虐をするのは、もうやめようか令和”という宣言をnoteでされて。SNS上でものすごい話題になりましたね。 つづ井:文字を書くのが苦手だったから、noteでちゃんと書けるか不安でしたが、反響の大きさにめちゃくちゃびっくりしました。なぜあれを書いたかというと『裸一貫! つづ井さん』の1話目を作る時に、どんな日記にしたいのかの決意表明が自分の中で定まっていなくて。今までのように、恋愛もしてない私がこんなの描いちゃってすいません、へへ…みたいなエクスキューズをわざわざつけていたんです。でも担当編集さんが、「本当にそう思っているの?」みたいな感じでちょっと引っ張り上げてくれたというか。その時、“オタクは真正面から「楽しい」と言ってはいけない”的な空気を作る側に加担していたことを改めて自覚しました。それで、せっかく応援してくれる人たちがたくさんいて、私が楽しんでいる姿を見るのが楽しいと言ってくれているんだから、自虐する必要はない。今ここで自虐をやめないと、この先も癖になっている楽な自虐をし続けてしまうと思ったんです。自分の退路を断つ意味でも、最初に宣言したのですが、背筋も伸びました。 ――そもそも、自分をオタクだと自認したのはなぜでしょう。 つづ井:あまり考えていなかったかも。私はオタクだし、隠れなきゃと自然に思っていて。確かに…なぜだろう。これは哲学かも (笑) 。『腐女子のつづ井さん』を描いた時も、腐女子ネタをたくさん詰め込もうと思っていたし。腐女子と名乗っていたのは、“オタク大学の腐女子学部BL学科です”みたいな感覚というか。でもBLが好きなだけで、本当は“腐”女子という言い方もしなくていいんですよね。だからいまだにオタク大学には通っているんですが、時代の流れとともに学部名は変わっていきそうですね (笑) 。最近は“オタク”ではなく“凝り性”という言い方をするようになりましたし。 ――“凝り性”っていいですね。最近の推しはいますか? つづ井:それが、つい最近見つけてしまいました! たまたまMちゃんがうちに泊まりに来ていた時、二人でごはんを食べながらあるライブ映像を流していたら、そこに映っていた男性アイドルを見た瞬間に頭をガーンと殴られたように転落しまして。横で見ていたMちゃんはその瞬間を見ていて、「怖い怖い…」って。ハチクロ (漫画『ハチミツとクローバー』) の“人が恋におちる瞬間をはじめてみてしまった”っていうあれです。 ――あの名台詞を体現されたと。 つづ井:私は翌日、着ぐるみでソーラン節を踊る仕事が入っていたので、今日は早く寝ようって言ってたから、Mちゃんは「ダメだよ、明日たくさんソーラン節踊るんでしょ」って止めてくれているのに、私は「ごめんごめん、ちょっと静かにして」ってその映像を見続けて。翌日、ソーラン節を踊ったあとに、すぐにそのライブのブルーレイを買いました。実はまだ自分でも落ちたことに実感が持てていないぐらいの段階なんですが、2時間のライブを見るのに、止めたり戻したりしながら6時間ぐらいかかっています。今までは情報が少なすぎる推しにハマっていたので、食べていいよっていきなりご馳走を出された感じで、この先どうなるか想像がつきません (笑) 。 ――忙しくなりそうですね (笑) 。 つづ井:世界が輝きまくっています! ドーパミンが出すぎていて、毎日が楽しいです。 ――これぞ、つづ井さんです。先ほど「人生はそれなりにいろいろあった」とおっしゃっていましたが、活動を始めて10年経ち、活躍の場をどんどん広げていることに、何か思うことはありますか。 つづ井:会社員になった時、そのまま地元でずっと生きていくものだと思っていました。それが自分の人生の正規ルートだったから。でもちょっとはみ出してみたらバグみたいなのが起こって、変わった人生のルートが始まって。その流れに乗って楽しそうなことを全部やってみたら、もっと楽しい方向に進んでいるという感覚です。だから今はボーナスタイムと考えて、より一層、楽しいことを逃さずにやっていきたいですね。 ――そういう前向きな気持ちや行動が読者に刺さり、勇気を与えてくれるんだと思います。これから挑戦したいことはありますか。 つづ井:やったことがないことをやってみよう、というのが座右の銘…じゃないですけど、挑戦したいことだらけ。今までは絵日記の形にこだわって、楽しいことを絵日記にすることを続けてきました。逆に言えば、絵日記を描くために楽しいことをするのはやめよう。それをしてしまったら、描くために楽しいことを探す人生になるからって。だからその順番は絶対に崩さないようにしてきたんですが、最近、体験記を漫画にする“レポ漫画”みたいなお仕事を受ける機会が何度かあって。それまで私が守ってきた順番とは真逆ですが、挑戦してみたらすごく面白かったんです。それも少し自信がついたからだし、自分はできるようになったんだな、と思いました。だから、いろんなことに挑戦するようなレポ漫画も描いていきたいです。 オタク女子のつづ井さんと友人たちが繰り広げる、見る人を元気にさせる実話が満載! 『まるごと腐女子のつづ井さん』 (文春文庫) と『裸一貫! つづ井さん』 (文藝春秋) を原作としたドラマ『つづ井さん』は、つづ井さん役に藤間爽子さんを迎え、読売テレビ (毎週木曜24:59~) 他で放送中。 つづい 2014年10月より、元気に趣味を楽しむ姿や友人4人との日常を綴った絵日記をTwitterで公開し話題に。’16年にコミック『腐女子のつづ井さん』 (KADOKAWA) が発刊され、シリーズ化。累計90万部を突破。最新作は上京生活を描いた『とびだせ! つづ井さん』 (文藝春秋) 。ドラマ『つづ井さん』 (読売テレビ系) が放送中。 ※『anan』2024年10月30日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・若山あや (by anan編集部) あわせて読みたいanannewsEntame グッとくるシーンも! ? アラサー・つづ井さんの東京でのひとり暮らし編、開…2024.6.25anannewsEntame DIVA・ゆっきゅん「私のような存在が地方に住んでいる繊細な中高生たちに…2024.9.14anannewsEntame EXILE NAOTO「自分が成長するきっかけを与えてもらった」 初ソロ…2024.9.7anannewsEntame 『けいおん!』手掛けたアニメ監督・山田尚子、最新作『きみの色』は“俺の考…2024.8.31anannewsEntame 上坂すみれ「ちょっとビックリされるかも」 アーティスト活動10周年記念の…2024.8.24