経営者の子「6割が継ぐ気なし」だが…「親の会社を継ぐ」メリットとデメリット【税理士の解説】
会社を引き継ぎと相続とは、一体で考える必要がある
「親の会社を継ぐこと」には、事業(経営)の引き継ぎと、財産の引き継ぎという2つの側面があります。 後者については、相続人(親の遺産を受け継ぐ権利を持つ人)が、後継者となる子以外にもいる場合は、慎重に検討しなければなりません。 株主と経営者の関係 株式会社の最高意思決定機関は株主総会であり、会社の所有権は株主にあります。社長(代表取締役)も含めた取締役は、あくまで株主から委任を受けて経営を執務するというのが、株式会社の建て付けになっています。 もし、株主と経営者(代表取締役)とが別の人物だとすれば、両者の経営意思が分かれた場合、株主の意思のほうが優先されます。そうなれば、経営者の考える通りの経営ができなくなり、経営は不安定化します。 そこで、経営意思の安定という観点からは、株主=経営者(代表取締役)となっている状態がもっとも安定します。 株主=経営者(代表取締役)であるとは、経営者が、最低でも株主総会議決権の過半数の株式を所有していることです。 詳しい解説は省きますが、株主総会の「特別決議」が可能になる3分の2以上の議決権を経営者が保有していれば、ベストです。 自社株式を集中して承継させれば、相続トラブルにつながりかねない 事業承継に際して、経営を安定化させるためには、株主=経営者となるように、自社株式のすべてを、後継者経営者となる子ひとりに、集中して承継させることがベストです。 株式を承継させるには、贈与、相続、または譲渡(子が買い取る)の方法がありますが、譲渡は子に多額の現金が必要であるため、贈与または相続による移転が一般的です。 つまり、事業承継には、自社株式のすべて、または大半を、後継者に集中して、贈与または相続させる必要があるということです。ここで、問題になるのが、相続人が複数いた場合の遺産分割の公平性です。 例えば、子が3人いて、長男を後継者と決めて、長男に自社株式のすべてを相続させたとします。 このとき、他の2人の子にも長男が承継した株式の価値と同じ程度の価値の財産を相続させることができれば、特に問題は生じないでしょう。 しかし、親に自社株式以外の財産が少なければ、それができません。すると、他の2人の子が不公平を感じてトラブルが生じる場合があります。特に、他の2人の子が取得した遺産が慰留分に満たない場合は、遺留分侵害額請求が求められるなどの係争になる恐れが非常に高いでしょう。 早めの相続対策がポイント こうした事態を防ぐためには、親の生前に自社株式以外の資産を十分に用意しておくことや、生命保険を適切に活用する方法などがあります。 いずれにしても、事業承継は相続とは切り離せず、一体化して考える必要があるということです。 相続対策には時間がかかる場合もるので、早期に、相続にくわしい税理士に相談しておくことをおすすめします。