『虎に翼』シンガポールで生まれ「普通のお嫁さんになるな」と育てられた寅子のモデル・三淵嘉子。東京帝大卒のエリート父・貞雄が西麻布に居を構えるまで
24年4月より放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。伊藤沙莉さん演じる主人公・猪爪寅子のモデルは、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さんです。先駆者であり続けた彼女が人生を賭けて成し遂げようとしたこととは?当連載にて東京理科大学・神野潔先生がその生涯を辿ります。先生いわく「1914年にシンガポールで生まれた嘉子は、両親と4人の弟たちと幸せな暮らしを送っていた」そうですが――。 【書影】 女性であるという自覚より人間であるという自覚の下に!『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』 * * * * * * * ◆嘉子の誕生 この物語の主人公であり、女性法曹のパイオニアとして知られている武藤嘉子(後の和田嘉子、三淵嘉子)は、1914(大正3)年11月13日、シンガポールで生まれました。 嘉子の父親である武藤貞雄は台湾銀行に勤務していて、シンガポールは貞雄の赴任先でした。 なお台湾は、1895(明治28)年に結ばれた下関条約によって、当時日本の領土となっていました。その台湾の中央銀行として1899年に設置されたのが台湾銀行です。台湾の貨幣を発行するという役割だけでなく、商業銀行としての側面も強く、糖業など台湾の産業の発展や資源開発に深く関与しました。 嘉子の「嘉」の字は、シンガポールの漢字表記である「新嘉波」から取ったものです。貞雄・ノブ(信子)の夫妻にとって、待望の第1子でした。 1886年生まれの貞雄は香川県の出身で、丸亀中学から第一高等学校、東京帝国大学へと進んだエリートでした。
◆早蕨幼稚園 貞雄はやがてシンガポールからニューヨークへと勤務地を移すことになりますが、ノブと嘉子はニューヨークへは行かず、1916年に帰国し、香川県丸亀のノブの実家でしばらく生活しました。 その年に弟の一郎も生まれています。 1920年、東京勤務を命じられた貞雄は帰国し、この機会にノブと嘉子も東京に移って一家で渋谷区に居を構えました。 渋谷区穏田1丁目の早蕨幼稚園(近代文学の発展に貢献した教育者・久留島武彦<1874―1960>が開いた幼稚園です。1910年の開園で、児童文学者巌谷小波<いわやさざなみ><1870―1933>の影響を受けて、桃太郎主義教育<桃太郎を教育論と結びつけ、秀才教育の必要性を説く>を掲げていたようです)に入園し、翌1921年には青山師範学校附属小学校(現在の東京学芸大学附属世田谷小学校)に進みました。 担任は、体育ダンス研究・普及の先駆者だった渋井二夫であったといいます。
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