土合駅下りホームが「日本一のモグラ駅」となった60年前のトンネル事情【トンネル駅を探検しよう】
数は少ないが、山岳トンネル内に設置された駅(ここでは「トンネル駅」と呼ぶ、地下鉄駅は除く)がある。利用者には不便だし、建設コストもかかるのになぜだろうか。行ってみるとなかなかおもしろい体験ができるトンネル駅を紹介しよう。 清水トンネルと新清水トンネルの断面図。これを見ればなぜトンネル駅ができたのか一目瞭然 (牧村あきこ:土木フォトライター) JR東日本上越線の土合(どあい、群馬県みなかみ町)は、おそらく最も有名な「トンネル駅」だろう。駅舎と上りホームは地上にあるが、下りホームは約70m下の新清水トンネル内にある。下りホームから改札口までは、486段もの階段をのぼらなければならない。 この深さのために「日本一のモグラ駅」と呼ばれ、ちょっとした観光スポットになっているのだ。 土合駅がなぜこのような構造になっているのか。それは、上越線の下り線と上り線が別々のトンネル(それぞれ「新清水トンネル」と「清水トンネル」)を通っているからだ。なぜそうなったのかを知るには上越線がたどった苦闘の歴史を振り返らなければならない。 それを説明する前に、まずは下りホームから改札口までのトンネル駅探検を実感してもらおう。 ■ 列車を降り、階段を上る 下り列車が土合に到着した。改札口に向かう階段は、黄矢印の先にある。
ホームが1つだけなのに、フェンスがあって複雑な構造をしているように見えるのは、以前、ホーム停車用の線路と、ホームのない通過用の線路の2本があった名残だ。現在はホーム停車用の線路を廃止し、通過用線路に新たに作ったホームを使っている。 以前のホームも、フェンスがあって入れないが、そのまま残っている。ホームが非常に長いのは、以前、長い編成の列車が走っていたことを示すものだ(現在の定期列車は4両編成)。 ホームから数十m水平に歩いたあと、ようやく地上へ続く階段の上り口がある。 まっすぐ斜め上方向に伸びる階段は想像していたよりもゆるやかだ。遠くに地上出口の明かりもしっかり見える。 階段の両サイドには手すりがある。左側の手すりと壁の間は、エスカレーターの設置を想定したスペースだが、結局設置されなかったので、階段を上がるしかない。 右側の手すりと壁の間は、地盤から湧き出た地下水が流れていた。 階段手前には、日本一のモグラ駅訪問を歓迎する案内板が立っている。改札口までは階段が全部で486段、距離は481m、高低差は70.7m。約10分の道のりだ。がんばろう。