ペットボトルのフタに描く風景 「私には絵しかない」体を壊し退職、たどり着いた〝3cm〟
「今の私にできることは絵しかない」
数カ月療養を続け、心身ともに少しずつ回復してきた頃、「なんとかして働かないと」という思いが芽生えてきました。 しかし、自信を失っていた西倉さんは「今の自分に何ができるんだろう。まともに仕事ができるのだろうか」と悩んでいたといいます。 貯金を崩しながら生活していましたが、「今の私にできることは絵しかない」と思い、アート関係のイベントに出展したり、SNSに作品を投稿したりし始めたそうです。以来、専業の画家として活動しています。 2022年5月、西倉さんに転機が訪れました。 東京でのイベントの際、以前からつながりのあったギャラリーのオーナーにこう言われたといいます。 「普段すごく細かい絵をキャンバスに描いているけど、それだけ細かい絵が描けるんだったら、もっと小さいところに描いてみたら?」 小さな紙に絵を描くことは誰でも思いつく。そうではない、意外性のあるものに描いてSNSで多くの人に見てもらうことで、アートに興味のない人にも届くのではーー。 オーナーのアドバイスは、これまで西倉さんが考えたことのない発想でした。 後日、地元のショッピングモールで小学生のつくったペットボトルのキャップのモザイクアートを目にし、「小さなキャップに描いてみるとおもしろいのでは?」と着想したそうです。 オーナーのアドバイスがなければ「素通りしていたかもしれない」出会いでした。
SNSでの見せ方も意識
2022年6月からキャップに絵を描き、毎日SNSに投稿しました。一つの作品にかける時間は3、4時間。細かい描写が得意だったため、風景を中心に描きました。 キャップアートを初めて2カ月が経った頃、知り合いの作家から「絵を描く前のキャップと並べて『ビフォーアフター』を出すと分かりやすいのでは?」とアドバイスされました。 さっそく投稿したところ、5万近い「いいね」がつき、これまでにない反響が寄せられました。 ”生茶のキャップに風景を描きました” ーー西倉ミトさん(@n_mito0813)のXより 西倉さんはコメントのひとつひとつがありがたかったといい、「作家として絵を描き続けてよかった」と話します。 「生活に彩りを与えてくれている」というコメントを見たときは、「アーティストとして人の役に立っている」と感じたそうです。