30代半ば・独身・子ナシ女性が『虎に翼』で叫びそうになったあのシーン。【まだまだ語る会】私たちが“壁”を越えるには
“当たり前”のことに突きつけた「はて?」
柏木: ドラマは26週続きましたが、どの週にも、女性にまつわるいろいろなことわざのタイトルが付けられていました。古き悪しき偏見や思い込みに基づくものが多いなとあらためて思います。性別や違いを超えて互いに理解し合い、多様性や個人の自由が尊重される社会へ変化していくことへの希望を込めて、最後に『虎に翼』を通じて感じたみなさんからのメッセージをお願いします。 北村: 寅子は、人生の色々な場面で時に間違えていたし、ほめられるような母親ではなかったかもしれませんが、自分の至らない点を認め、受け入れながら進んでいました。彼女のように、「やり直し」をすること。それはこれからの社会を変えるキーワードになるように思います。 今は、インターネットやSNSで個人が意見を発信しやすいこともあるからか、世間が人の失敗を許さず、ひとたび間違えることがあればたたかれ、ずっとその後も良くないイメージを持たれがち。私は、そういった他者の目に圧を感じ、モヤモヤしていましたが、寅子のスコンと突き抜けるような明るさにたくさん救われました。このドラマを見ていなかった方も、第1回からぜひ視聴してほしいです。 清: 例の週タイトルには、末尾に必ず「?」が付いていました。これは、寅子の「はて?」にちなんだものだったのかな。当たり前だとされていることに疑問を持つことが、社会をより良くする第一歩になる、という意味が込められているように感じました。もちろん、相手に対してだけでなく、自問することも含んでいるように思います。 女子部時代、寅子が「考えが違おうが共に学び、共に戦うの」と言ったセリフがありましたが、それは、この作品全編を通して伝えたかったメッセージではないでしょうか。対立ではなく、分かり合おうとすること。自分と違う部分があっても寄り添う気持ちを持つこと。さらに、女性同士だけでなく、男性も含めて苦しみを理解すること。それをこの物語で描いていたのがすばらしかったです。 塚田: リアルに女性を取り巻く社会的なトピックを盛り込んだ作品は、これまでも多くありましたが、『虎に翼』の真髄は、それを画一的な社会問題としてではなく、本当に多様な一人ひとりの人生として描いているところにあったと思います。 寅子の歩みを振り返れば、女性弁護士としての活動を始めた頃、なかなか仕事の依頼が来ない状況でした。彼女は、その理由を自分が「未婚」だからと思い、社会的な信頼度や地位を上げる“手段”として、あんなに心躍らなかった見合い結婚を望みます。その相手に立候補し、夫となった優三は、「独り身への風当たりの強さは、男女ともに同じ」と言っていました。 女性だからこそ起きると思われがちな社会問題の中には、実は男性も抱えているものもあり、このドラマは、「女性」だから「男性」だからではなく、一人ひとりが人として向き合うべき課題をいろいろと教えてくれました。それは、すべての人に与えられた、人生をよりよく生きるための平等な権利に通じるのだ、とあらためて感じました。 柏木: 寅子と、彼女と関わった人々の生き方、直面した様々な壁について、telling,読者もそれぞれ自分を重ねて思いを深めた半年間だったと思います。「スンッ」としたままにせず、時に「はて?」と声を挙げる勇気を持ちたい、そんなことを感じました。みなさん、本日はありがとうございました。
文:小島泰代 コーディネーター:柏木友紀