子ども時代の“体験”の有無が大人になるとどう影響しているのか…日本で放置される体験格差、この社会にどう抗うか
ただし、保護者がそのお金を払えるのならば
親世代から子世代へと「体験」の格差が連鎖している可能性については、全国調査の分析においても、インタビューの中でもたびたび触れてきた。 最後に、「体験」の場が家庭や学校での関係性だけではない、色々な他者とのつながりを育む機会であるという点にも注目したい。 近しい年齢の子どもたち、少し年上のお姉さんやお兄さん、あるいは大人のコーチや先生たち。こうした他者とのつながりの豊かさに、例えば習い事の月謝が払えるか否かが影響を与えてしまっている。インタビューの中でも、親たち、子どもたちの社会的な孤立がたびたび見え隠れしていた。 かつて子ども時代に支援活動を通じて出会い、今は社会人として働いているある青年は、サッカーのコーチに「サッカーのスキルだけじゃなくて、人として成長させてもらいました」と語っていた。彼は幼少期に父親を亡くし、母子家庭で育っていたが、母親が色々な我慢をしながら、サッカーにだけは小学生の頃からずっと通わせてくれていた。逆に言えば、そうさせてあげられない親たちも、たくさんいるはずだ。 あるスポーツの指導者から、一人の不登校状態の子どもが、地域のスポーツチームにだけは必ず参加しているという話を聞いたこともある。「体験」の場は、社会とつながることに困難を抱える子どもにとっての大切な居場所となる可能性があるし、実際になっている。ただし、保護者がそのお金を払えるのならば。これが現実だ。 社会の中での様々な他者とのつながりは「社会関係資本」とも言われ、子どもの教育や健康、ウェルビーイングに関わるとされる。こうした格差の構造を繰り返さないためにも、低所得家庭の子どもたちがアクセスしづらい「体験」の機会を広く提供することが重要ではないか。 体験格差に抗う社会をどうつくっていくかが重要だ。 写真/shutterstock
---------- 今井悠介(いまい ゆうすけ) 1986年生まれ。兵庫県出身。小学生のときに阪神・淡路大震災を経験。学生時代、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校の子どもの支援や体験活動に携わる。公文教育研究会を経て、東日本大震災を契機に2011年チャンス・フォー・チルドレン設立。6000人以上の生活困窮家庭の子どもの学びを支援。2021年より体験格差解消を目指し「子どもの体験奨学金事業」を立ち上げ、全国展開。本書が初の単著となる。 ----------
今井悠介