第93回選抜高校野球 大崎、でっかい恩返しを 「実力まだまだ」気を引き締め /長崎
<センバツ甲子園> 小さな島のでっかい夢がかなった――。29日にあった第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)の選考委員会で、県勢の大崎(西海市大島町)のセンバツ出場が決まった。大崎の甲子園出場は春夏通じて初めて。島民のエールを受けながら練習に励んできた選手たちは歓喜し、「全国制覇して大島に恩返ししたい」と夢舞台での活躍を誓った。大会の組み合わせ抽選会は2月23日にあり、3月19日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕する。【中山敦貴、今野悠貴】 センバツ出場校の発表が北日本から始まり30分がたった午後4時過ぎ、大崎の酒井俊治校長は次第にそわそわし始めた。まさか駄目なのか……。脳裏に不安がよぎったその時、校長室の電話が鳴った。「ありがたくお受けします」。受話器を置くと、寒空のグラウンドで待つ選手の元へ向かった。 保護者や後援会関係者らが見守る中、吉報を受け取った選手たち。当初の笑顔に涙が交じるようになったのは、清水央彦(あきひこ)監督(49)の“間”だった。「甲子園決まったけど……」。言葉が続かない。目を赤くさせて数十秒、整列した選手を見つめた後、語りかけた。「3年前(大崎に)来た時はグラウンド整備から始めたな」。春切符までの思いが去来した。 昨夏の県独自大会で優勝するも、コロナ禍で甲子園は中止。「3年生が7、周りのお陰が2、残りの1が1、2年生だ」と話し、全学年でつかんだ栄光だと強調した。 グラウンドには、制服や他の部活のジャージー姿の生徒も駆けつけ、かじかむ手をさすりながら拍手を送った。陸上部2年の力武俊幸さんは、選手が授業後に真っ先に教室を飛び出していく姿が印象的だといい「クラスメートの誇り。頑張ってほしい」と話した。 野球部OBで、監督も務めた会社員の松井利明さん(60)は、急成長した後輩に「球の捕り方からレベルが違う。練習通りやれば甲子園でも勝てるはず」とエールを送った。 秋山章一郎主将(2年)は「甲子園で優勝して、応援してくれた3年生や地域の方々に恩返ししたい」。昨秋の九州地区大会準決勝でサヨナラ適時打を放った乙内翔太選手(同)は「自分たちの実力はまだまだ足りない。甲子園まで1日を無駄にせず練習したい」と気を引き締めた。 ◇走攻守で安定 勝負強さ発揮 大崎は2020年秋の九州地区大会で並み居る強豪を倒して優勝。走攻守で安定した力を発揮し、全4試合で逆転勝ちするなど勝負強さが評価された。 準決勝の明豊(大分)戦では延長十二回の激闘の末、乙内翔太選手(2年)がサヨナラ適時打を放って勝負を決め、決勝では福大大濠(福岡)相手に11安打を集めるなど打線が力を発揮した。 投げては主戦の右腕、坂本安司投手(2年)が準決勝まで完投し、決勝では左腕の勝本晴彦投手(1年)が緩急をつけた投球で相手打線を手玉に取った。バックも全試合無失策と投手をもり立てた。 長年低迷していた大崎だが、18年春の清水央彦監督就任をきっかけに躍進し、19年秋からは県内公式戦で無敗。「甲子園優勝」を目標に掲げ、投打で底上げを図っている。 ◇小学生のハートもわしづかみ ○…「キュンキュンです」。西海市立大島西小5年、松本彩(いろ)さん(10)は、弾んだ声でグラウンドにいる3年生部員のサインを集めていた。練習試合を見に行くほどの生粋の“大崎党”で、選手を「神!」と言い切る。「全員が努力する姿を見て、私も頑張ろうと思える」。一緒に来た同小1年の山口花音(かのん)さん(7)も野球部のトレーナーを着て「うれしい。けど寒いな」と球春の到来を心待ちにしていた。 ◇王者のプレーを 西海市長らエール グラウンドで選手に胴上げされた西海市の杉沢泰彦市長は「市内の高校が甲子園に出場するのは初めて。コロナ禍を吹き飛ばすような快挙に市民挙げて歓喜している。九州王者として躍動感あるプレーを期待している」とコメントした。 県高野連の西田哲也会長は「5000人の島の、小さな学校の挑戦として注目が集まると思うが、気負うことなく平常心で、はつらつとした試合を見せてほしい」とのコメントを発表した。 ……………………………………………………………………………………………………… ◇九州地区大会県予選◇ 2回戦 6―2 島原 3回戦 12―4 西海学園 準々決勝 9―2 瓊浦 準決勝 6―0 長崎西 決勝 7―3 長崎日大 ◇九州地区大会◇ 1回戦 9―2 開新 準々決勝 3―2 延岡学園 準決勝 3―2 明豊 決勝 5―1 福大大濠 〔長崎版〕