「40代後半でカネもない独身のおっさんに人権なんてないんです」年収の価値基準が高すぎる男性社会の地獄とは?
男性は「男らしさ」から降りられない
――「女性から選ばれない」ことが、そこまで不幸感につながっているのはどうしてだと思いますか。 40代も後半になったらわかりますよ。毎日同じ仕事をして、割引になった惣菜買って、安い焼酎を買って……って繰り返してみなさいよ。同級生は3人目の子どもが生まれて、家を買って、小学校の卒業式の写真をアップしてるんですよ。 それを見ながら酒を飲んで、ソシャゲのログボ(定期的にゲームを起動することで得られる特典)だけ回収して、クソして寝る。このどこに幸せを見いだせって言うんですか。 今さら趣味のサークルに顔を出したって、公園でただ日向ぼっこしてたって、下手すりゃちゃんと金払って居酒屋で飲んでても、俺みたいなのは不審者ですよ。 いいっすか、独身のおっさんに人権なんかないんです。そこにいるだけで怪しくて、やばいんですよ。だからこのインタビューを見てくれる人には言いたいですね。死ぬ気でスペック上げろ。女を抱け。そうしないと人生終わるって。 松尾さんの言葉には、インパクトがあった。とてもではないが、筆者に否定する力は起きなかった。この数十年で「独り身の女性」の待遇はかなり変わった。 オールドミスなどとバカにされた時代から、趣味や仕事を楽しむ「ソロ活」としての自分を認めてもらえる時代に変化しつつある。さすがに女性一人でディズニーランドや焼き肉店へ入るのは抵抗があるという女性もいるだろうが、たとえ行動したとしても、わかりやすい悪口を聞かされることはない。 それと比較して、独り身の中年男性は確かに冷遇される。通学路、公園、夜道、どこにいても「怖い、危ない」存在に映るからだ。通報されるリスクは高い。 2023年に、Xではこんな話題が出た。「男らしさから降りればいい」と言う女性に対して、ある男性が「だったら、怖い人に絡まれたときに怯えて逃げる男性と添い遂げてほしい」と反論が届いたのだ。それに対して、元の発言をした女性は「それは弱い男ではなく、卑怯な男だ」と切り返した。 だが、そうだろうか。「土壇場では男は女を守るもの。そうでなければ卑怯である」という前提がそこにはないだろうか。女を置いて逃げる男は、男ではないと認識していないだろうか。 そこに、男性が「男らしさ」から降りられない構造がある。そして、未婚であることが社会的に大きなスティグマとなり得る男性にとっては、女性から恋愛対象として“ないわ”と軽蔑されることが、あまりにも大きなマイナスとなるのだ。 もし、本当に「男らしさから降りて」も平等に扱われるなら、降りたい男性は多いだろう。だが、暴漢に脅されて泣きながら女性にしがみつく男性は、モテない。同じシチュエーションでも女性なら立ち向かおうが、泣きつこうが恋愛対象になるのとは対照的である。 念のため付記するが、日本で女性に対する差別がないとは言っていない。ただ、この数十年で女性が「女性らしさ」から少しずつ解放されてきた流れとは裏腹に、男性はまだ男らしさの呪縛に、がっちりと囚われている。 男らしさは構造的な問題であるがゆえに、男性個人が「降りた」と反旗を翻すだけでは、価値観を引っくり返せないのだ。 図/書籍『弱者男性1500万人時代』より 写真/Shutterstock
---------- トイアンナ(といあんな) 慶應義塾大学を卒業後、P&G ジャパンとLVMHグループにてマーケティングを担当。同時期にブログが最大月50万PVを記録し、2015年に独立。主にキャリアや恋愛について執筆。書籍『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)など。これまで5000人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。 ----------
トイアンナ
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