「どうすりゃいいんだよって思った」渡辺謙が『ライオン・キング:ムファサ』で悪役を演じて感じたこと
2024年はアニメーションの『ライオン・キング』劇場公開から30周年。その記念すべき年に、『ライオン・キング』の主人公シンバの父であり、偉大なる王であるムファサ、後にスカーとなるタカの若き日を描いた映画『ライオン・キング:ムファサ』が公開となりました。同作の超実写プレミアム吹替版で、世界的俳優である渡辺謙さんが、ムファサとタカを執拗に追い掛け回す冷酷な敵ライオン・キロスの声を担当します。 【写真】『ライオン・キング:ムファサ』で苦戦した劇中歌について話す渡辺謙 完成した映画を観たばかりの渡辺さんは、取材中も興奮冷めやらぬ様子で熱い思いを語ってくれました。後編では、「ヴィラン」を演じて感じたことをお伝えします。
キロスの歌唱シーンは「どうすりゃいいんだよ」と思った
──楽曲は、ブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』で数々の賞を受賞、『モアナと伝説の海』(2017)や『リトル・マーメイド』(2023)など、近年のディズニー作品でも欠かせない存在となっているリン=マニュエル・ミランダが担当したのですよね。リン=マニュエル・ミランダの楽曲は、名曲であり、難曲ばかり。「え、ここで?」という、意外なところで転調があったりします。なかでも、謙さん演じるキロスが歌う〈バイバイ〉は、素人目にも難しそうな曲だなと感じました。 渡辺でしょう? 最初、「どうすりゃいいんだよ、これ」って思ったよ。なんてややこしい曲を作るんだと(笑)。軽快なアフリカンビートで、日本語の譜割りだと歌っていると自然とリズムに乗ってきちゃうんです。本当はキロスは冷酷で重厚感がある役どころなのに、リズムに乗っちゃうとキロスじゃなくなってしまって…。セリフの収録の後に歌の収録だったのですが、本当に「キロス、どこに行っちゃったんだろう?」ってなってしまってね。これはまずいぞ、どう歌えばいいんだと思い、スタッフの人に、「一度、(オリジナル版でキロスを演じた)マッツ・ミケルセンの〈バイバイ〉を聞かせてくれ」とお願いしたんです。 ──いかがでした? 渡辺それがさ、すごくネチっこく歌ってるの(笑)。曲中で、何度か、「バイバイ」ってセリフが出てくるのだけれど、その言い方も適当でね。 ──(笑)。 渡辺少しおちょくっているような「バイバイ」という言い方がすごく印象的で、なるほど、こういうアプローチなのかと。ちょっとアプローチを変えて歌ったらブースのスタッフたちがこれで行こうっていう雰囲気になったので、その方向性で収録にのぞみました。 ──冷酷な敵・キロスという役柄をどのようにとらえていますか? 渡辺キロスたちの群れは、ほかのライオンたちから迫害されている、異端のライオンたちで構成されています。ムファサやタカなど、ほかのライオンたちは血統でつながっているけれど、キロスたちは違う。迫害されたライオンたちが集まって群れを形成しているので、ある意味、血統より堅い絆で結ばれているのかもしれません。そんな部分に、現代社会が抱える社会構造のゆがみみたいなものが色濃く投影されているなと感じました。 ──たしかに謙さんのキロスからは、冷酷さだけでなく、孤独感や悲しさのようなものを感じました。 渡辺製作のテクニックによる部分が大きいと思うんだけど、(キロスには)湿度感がないんだよね。演じる際もそこは意識しました。