映画『SUPER HAPPY FOREVER』はなぜいまつくられたか。五十嵐耕平監督・山本奈衣瑠らの言葉から紐解く「同時代性」
ただ「生」を楽しみ、表現し、焼きつける。凪というキャラクターの魅力とその裏側
山本奈衣瑠が演じる凪の職業はフォトグラファー。2018年の夏、凪は友人とともにZINEをつくるために、伊豆に取材を兼ねた旅行にやってくる。しかし、友人は身内の不幸で参加できなくなり、急遽一人旅に。そこで偶然出会った佐野たちと交流を深めていくことになる。 凪という役もまた、現実の山本奈衣瑠とリンクしている。山本はモデルとしてキャリアをスタートし、ファッション雑誌やアパレルブランドの広告などに数多く登場。ファッションアイコンとして注目を集めた。しかし、モデル事務所を退所して独立し、2019年にフリーマガジン『EA magazine』を創刊。徐々に俳優としても地位を確立し、クリエイター・表現者としての道を歩んでいる。『SUPER HAPPY FOREVER』のなかで、何かを焼きつけるようにフィルムカメラのシャッターを切る凪の姿は、表現活動に情熱を燃やす山本の「素の姿」と大きな違いはないはずだ。 山本自身も、「私は『自分がいなくなった世界』を知らないので、この映画ではただ楽しく、その場を生きることを意識して演じました。等身大で、そこで生きている姿を残すことが凪の役目だなって」と話す。 この旅で凪にとって重要だったことの一つが、ホテルで清掃員として働くベトナム人アン(演:ホアン・ヌ・クイン)との出会いだ。わずかな滞在期間中、従業員とゲストという関係を超えて仲を深めた2人。凪はチェックアウトの直前、この映画のキーアイテムともいえる「あるもの」をアンに託す。そして、「いつかもう一度泊まりに来るから、また会おう」と約束する。 2023年、ホテルは閉館することが決まり、アンもベトナムへの帰国が決まっている。佐野と宮田がふたたびホテルを訪れたのと同じタイミングで、アンは最終出勤日を迎えていた。そして、ホテルを去るアンは、凪から託された「あるもの」をしっかりと身につけていた。 この世にいない凪、過去にとらわれる佐野と、つぎのライフステージに向かうアンが鮮やかに対比される。