《ブラジル》ルーラは入院中でも大統領=なぜ代行を指名しないのか
ルーラ大統領(労働者党・PT)は、10月の転倒事故が原因で頭蓋骨内部に溜まった血を抜く緊急手術を受け、現在もサンパウロ市内病院の集中治療室に入院中だ。だが大統領職を休職することなく、ジェラルド・アルキミン副大統領(ブラジル社会党・PSB)に職務の一部を任せるのみだ。担当医師によれば、ルーラ大統領は完全に回復するまで職務を行うことを禁じられているが、それでもアルキミン氏を大統領代行に指名しない理由について、10日付のCNNブラジルなどが解説している。 ブラジル憲法では、大統領が「障害」により職務遂行が不可能な場合、副大統領が代行すると定めている。だが、健康問題に関して「障害」とみなされる具体的な条件については明確な基準が示されていない。そのため、休職の判断は大統領本人に委ねられており、職務遂行が可能か否かを決定する権限を持つ。 今回のケースでは、ルーラ大統領は手術後の経過観察が必要とされ、医師からは完全に回復するまで職務を行うことを禁止されている。一方で、意識は明瞭であり、医療チームによれば集中治療室での滞在は2日間を予定し、来週にはブラジリアに戻る見通しだとされている。 このような状況を踏まえ、大統領府の広報を担当するパウロ・ピメンタ通信局長も、大統領が正式に休職し、副大統領に職務を全面的に引き継ぐ必要性はないと説明している。 実際には、対面が必要とされる大統領の公務の一部はアルキミン氏が代行しており、10日にはスロバキアのロベルト・フィツォ首相との二国間会談を行った。このように副大統領が一時的に大統領業務を代行する場合でも、正式に大統領代行として指名されていない限り、副大統領の行動は大統領の指示や方針の範囲内に限られる。 専門家の意見によれば、大統領が意識を保ち職務を遂行する能力がある限り、憲法上、副大統領に職務を引き継ぐ義務はない。憲法学教授のアレッサンドロ・ソアレス氏は、大統領が一時的に離脱する場合でも、副大統領の職務は限定されるべきであり、例えば大統領と相談なしに閣僚変更を行うことなどは許されないと指摘している。 過去の事例として、ジャイール・ボルソナロ前大統領(自由党・PL)が、2018年の大統領選挙期間中にナイフで腹部を刺された後遺症の手術で計18日間入院した際、2日間のみ正式に副大統領に職務を引き継いだ例が挙げられる。同年9月にも入院中に5日間職務を引き継いだが、21年の腸閉塞による緊急入院時には、副大統領への引き継ぎは行われなかった。 このように、健康問題に関する大統領職の「障害」の判断は、本人の裁量に委ねられている。