世界で広がる「デジタルノマドビザ」の恩恵を日本人が受けにくい理由
ITを活用して場所に縛られず、国内外を旅しながら仕事する「デジタルノマド」と言われる人材を対象に、要件付きで新たな在留資格である「デジタルノマドビザ」の発給が開始された。このビザで入国する外国人には、日本に6か月間滞在できる「特定活動」の権利が与えられるが、その間の所得税は免税となる。 【写真】各国のホテルを点々とする富裕層の働き方 この点に、ネット世論では「外国人優遇」といった批判もあるが、政府の意図はどこにあるのか。元・国税調査官の松嶋洋氏に聞いた。 * * * ■政府の狙いは高所得者誘致 アメリカの旅行情報会社「A Brother Abroad」が2022年に発表した調査によると、デジタルノマドは世界中に約3500万人おり、市場規模は117兆円に達するそうです。おそらく政府には、優秀な人材を日本に招くことによるIT技術の進歩や、単に観光費として日本にお金を落としてもらいたいなどという思惑があるのだと思います。 要件として、①日本滞在期間を含む年収が1000万円以上、?ビザ(査証)免除の対象で、日本と租税条約を締結する49か国・地域の国籍を持つ、?民間医療保険に加入、などが挙げられ、①からもデジタルノマド誘致による経済効果を期待していることが伺えるでしょう。 また、世界ではすでに10数か国が専用の「デジタルノマドビザ」を発行しており、日本は後れを取っていることも、開始が急ぎ足で行われようとしている背景にあるのだと思います。要件は国によって異なりますが、税の優遇措置があるところも多く、足並みを揃えたいという考えもあったのでしょう。 デジタルノマドの性質として短期滞在が大前提ですし、多少の免税措置を与えても、彼らの日本での消費によってそれを上回る経済効果があると判断したのだと思います。 ■日本は世界と比べて税金が高い 現在、出張や会議などが目的の場合は「短期滞在」の在留資格で入国できますが、滞在期間は最長90日間が原則です。90日を超えて働く場合は就労ビザを取得する必要があるほか、日本に拠点のある企業などから報酬を得る必要があります。 また、日本の所得税は「居住地国」を中心に課税の判断をし、日本に住所がある居住者とそれ以外の非居住者で取扱いが異なります。この判定はさまざまな事実関係を基になされますが、1年以上日本に継続して仕事をするような場合には、住所があると判断されやすいです。 なお、非居住者の場合、日本で稼いだ一定の所得についてのみ課税され、税率は租税条約の定めなどにもよりますが、給与などの報酬については原則として20・42%とされます。 これに関し、近年問題になったのが日本でプレーをしているサッカー・Jリーグ所属の外国人選手による税金申告漏れです。著名なスポーツ選手となると高所得者も多く、日本の居住者になると累進課税で55%まで税金がかかります。これは先進国の中でも非常に高い税率になります。 従来、外国人選手に対しては単年契約が中心でしたが、その引き抜きを防止するため、複数年契約を結ぶ外国人も増えたようです。そうなると、先の通り1年以上日本に継続して仕事をする、ということになり、去る2023年においては居住者にあたるとして多額の課税がなされたといわれています。