世界で広がる「デジタルノマドビザ」の恩恵を日本人が受けにくい理由
■デジタルノマドが難しい日本人 一方で、日本人が海外で仕事をする場合はどうでしょう。 前述のように、海外ではデジタルノマドが滞在しやすくなる仕組みが広がりつつあります。例えばマルタでは、リモートワークビザでの地方所得税は完全免除。マレーシアでも海外企業からの雇用やフリーランスから得た収入は不課税としているようです。スペインでも非居住者向けの優遇所得税率を最大6年間にわたって適用するなど、さまざまな税の優遇措置が設けられています。 ただし、日本人がそうした国々でデジタルノマドとして働いたとしても免税とはならず、日本で「居住地国課税」が適用されてしまう可能性があります。単純化すると、日本に住所があれば日本の居住者になるため、拠点となる住居が日本にあれば、日本に住所があると判断され、納税義務が生じてしまう可能性が高いということです。 そのため、家を持たずにホテル暮らしで各国を転々とする「パーマネントトラベラー」というライフスタイルが話題となりました。こうした日本人が増えることは国庫的には問題ですが、ルール上は問題ありません。まあ、こんな暮らしができる人のほうが少ないとは思いますが......。 さらに複雑なのが、日本にも海外にも住居を所持し、両方で生活している場合です。例えば、日本とシンガポールを行き来している人がいたとして、一年の半分をシンガポールの住居で、もう半分を日本の住居で過ごした場合は、どちらの国に住所があるとされるのか。 このような場合には、家族がどっちに住んでいるのか、メインの職業はどっちか、といった点なども踏まえ、総合的に検討して判断されることになります。なお、税務調査では、暦年の半分である183日、どちらで過ごしているか、ここを重視する傾向があります。 一例として、これで大きな問題となったのは、『ハリーポッター』の日本語訳者さんです。国税庁から35億円を超える巨額の申告漏れを指摘されるも、当人はスイスに居住していると主張して異議申し立てをし、最終的には日本課税で合意となりました。直観的には、『ハリーポッター』の日本語訳は日本人が買うのだから日本課税が当然なのではないかと思いますが、課税のルールはそうではありません。 これからデジタルノマドとして海外で働きたいという人は、住所がある国を中心に課税されるというルールを踏まえ、税率の高い日本に住所があるとされることはないか、そのリスクを踏まえて行動する必要があります。 構成/桜井カズキ 写真/photo-ac.com