『古畑任三郎』史上最高の神回は? 全43話で最も面白い回(1)再放送NGの噂も…日本ドラマ史に残る伝説は?
三谷幸喜が脚本を手掛けた刑事ドラマ『古畑任三郎』が、放送開始30周年を記念してフジテレビ系列で一挙放送される。そこで今回は、これまで放送された全43話の中から、珠玉の神回を5つ紹介。古畑が対峙した最強の犯人や事件が起きない異色回など、ドラマの魅力を余すことなく紹介する。第1回。(文・編集部)
「古畑任三郎 vs SMAP」(1999)
放送日:1999年1月3日 演出:鈴木雅之 出演:田村正和、中居正広、木村拓哉、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾、西村雅彦、戸田恵子、宇梶剛士、石井正則、宮地雅子、小林隆、野仲功、梶原善 【注目ポイント】 これまで幾度となく再放送されてきた古畑任三郎だが、諸般の事情から再放送されることが少ない伝説の回がある。それが、『古畑任三郎vsSMAP』だ。 オープニング。暗いセットの中、古畑は1人語りをはじめる。 「戦国武将毛利元就はこんなことを言いました。矢は一本一本は非常に折れやすい。しかしそれが三本集まれば決して折れる事は無い、と」 そして古畑は、やってみましょう、と3本、4本と立て続けに矢を取り出し、難なく折っていく。続けて、5本の矢にも挑戦するが、こちらはなかなか折れない。 すると古畑、近くにいた今泉を呼び出し、その場にひざまずかせる。そして、今泉の膝めがけて思いっきり矢を叩きつけ、無理矢理へし折る。 「問題は矢の数ではないんです。要は、誰が折るかという事で…」 たやすく折れない「5本の矢」の絆と、その牙城を切り崩す古畑と今泉の奇妙な関係性。このアヴァンタイトルほど、本作のテーマを簡潔に表現したものはないだろう。ここでいう「5本の矢」とは、他ならぬSMAPのことだ。 日本を代表する国民的アイドル、SMAP。「歌って踊れる」という従来の枠を超え、バラエティにドラマにと多様なジャンルで活躍する彼らの存在は、まさに、日本芸能史の革命だった。 そんな彼らが一堂に会し、本人役でドラマに出演する。しかも、全員が殺人犯役で―。このあまりにもショッキングな内容は、おそらく当時としてもかなり攻めた企画だったことは間違い無いだろう。つまり、本話は、それ自体が日本ドラマ史上に残る「事件」だったのだ。 あらすじからも分かるように、本作の最大の見どころは、5人の「絆」であり「友情」だ。特に前半、仲間を脅迫する憎きゆすり屋をこの世から葬り去らんと5人が結託し完全犯罪を目論む様子は、視聴者の胸を熱くさせること請け合いだろう。 しかし、開始50分、古畑たちの捜査の手が入ると、彼らの友情にヒビが入りはじめる。仲間のうちの誰かが、現場にあえて証拠を残していたことが判明したのだ。裏切り者は一体誰なのかー。後半は、このミステリーらしい「フーダニット」(Who done it?:誰がそれをやったか)が物語の焦点となる。このあたりの構成の見事さは、群像劇を得意とする三谷幸喜の面目躍如といったところだろう。 また、SMAP5人のパブリックイメージそのもののキャラクターも、本作の魅力の一つだろう。作中では、お人よしな悩める青年・草彅剛を守るため、責任感が強いリーダーの中居正広とお調子者のムードメーカー・香取慎吾、クールでミステリアスな個人主義者・稲垣吾郎、そして挑戦的な木村拓哉が結託する。つまり本作では「SMAPがSMAPを演じている」作品でもあるのだ。 そして忘れてはならないのが、戸田恵子演じるチーフマネージャー、前田の存在だ。 デビュー以来、5人のお守り役を担ってきた彼女は、コンサートの開幕直前に彼らの犯行を知り、「胸を張っていきなさい」と送り出す。そして、古畑が、彼らと一緒に行かれますか? と尋ねると、次のように返すのだ。 「行くわけないでしょ。わたしには3000人のお客さんを説得する大仕事が残ってるんだから。…どこまでも世話のやける子たちだわ」 そしてエンディング、彼女は、SMAPの代わりにステージに登壇し、静まり返る数千人の観客に向って、しずしずと頭を下げるのだ。その凛とした姿には、世間から5人を守るという「母親」としての覚悟がありありと感じられる。 さて、かくも強い絆で結ばれていた彼らも、2016年の解散会見を境に、バラバラになってしまったのは周知の通りだ。SMAPファンの自分としては、5人が再び一堂に会する日を願うばかりだ。 (文・編集部)
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