23年ぶり夏将軍復活へ!松山商「勝利の最短距離を走る野球」で初戦突破!
7月13日、愛媛県松山市の坊っちゃんスタジアムの内野スタンドをぐるりと取り囲む4階席には、愛媛大会の開会式に臨む各校の選手たちが、入場行進全体集合がかかるまでのひと時を過ごしていた。 【トーナメント表】愛媛大会 結果一覧 時折降る雨音や、各校主将・マネージャーが一足先に参加しているリハーサルの音とともに流れる少しゆったりした時間。しかし……。この人の声が、そんな空気を一気に戦闘モードに変えた。 「自分たちのための入場行進と違うぞ!しっかり見させてもらうからな」 30年近く全力発声を貫いた勲章でもある、ややしゃがれた声の主は松山商・大野 康哉監督だ。 五輪の国別の入場行進が国の代表意識を高める目的だったことからも分かるように、入場行進は自らのチームの意気を周囲に知らしめるために行うもの。となると昨秋、今春と県大会を制した第1シード・松山商の入場行進は、否応なく自チームのみならず他チームからも注目を集めるものとなる。 そんな指揮官の激に対し「はい!」と声をそろえた選手たち。はたして、実際に入場行進が始まってみると、彼らは見事なパフォーマンスで観衆の視線を釘付けにする。 プラカードを持った古志 汰知マネージャー(3年)、校旗を持った主将・大西 利来(3年・捕手)、それに続く選手18名が呼吸と声を合わせ、体幹をしっかり使いつつ脚を高く上げて一歩ずつグラウンドを踏みしめる。その様は様式美を超え、22年もの間にわたり閉ざされた甲子園への扉をこじ開けようとする矜持と意思をも感じさせるものだった。
「林頼み」脱却の胎動見えた宇和との初戦
「僕は自信ないです(笑)」 開会式から1週間が経過した7月20日。試合開始に備え、学校で朝5時から体を温め万全を期しているにもかかわらず、宇和との初戦を前にした取材での大野監督は「選手たちにはやれることをやって自信をもってやっていこう」と話した一方、自らのことについてはこのような殊勝な発言に終始する。 無理もない。試合は当初の16日から4日間順延。指揮官も「(1学期の)終業式後の初戦は記憶がない」というほど調整が難しい状況に。しかも、対戦相手の宇和は一昨年代表校の帝京第五を渡部 遥斗(3年)のノーヒットノーランで破り勢いに乗った状態で挑むことに。 試合は、制球力に絶対の自信を有する最速144キロ右腕・林 颯太投手(3年)が先頭打者に四球を与えピンチを招くなど、3回表までに4四球の乱調。「ストレートで押すより、すべての球種を使って1人ずつ打ち取るしかない状態だった」波乱含みの滑り出しとなった。 昨夏・今治工に初戦で敗れた悪夢すら頭をよぎるスタンドのざわつき。だが、松山商は「林頼み」から脱却しつつある選手たちのプレーが随所に出て、宇和を突き放す。その代表格の1人目が2番・中堅手の山田 恭平(3年)。「練習から踏み込んでセンター方向に打つことを意識していた」と話すスピードスターは、3回裏一死三塁の先制機を迎えると大野監督から「ボールをしっかり見て上からまっすぐ打て」という伝令に見事応える中前適時打。「相手の嫌がることをやっていく」自分の責務を理解した一打でゲームの主導権を握った。 もう1人は指揮官も「一番成長した」と認める主将・大西である。この試合で出色だったのは自身が「春までは林に頼っていた」と認める配球面。特に4点リードした5回表二死から連続四球で高校通算15本塁打の4番・渡部を迎えた場面では初球でこの日初めてとなるスライダーを要求。「大西の要求と自分の意思が合致した」(林)と、外角低めに流れる125キロで完全に体勢を崩すことに成功すると「最初は内角に投げさせようと思ったが、初球の反応を見て外角に変えた」136キロストレートで右飛に打ち取り試合の趨勢をほぼ決めた。 指揮官の要求に応えるだけでなく、これまで積み上げてきたことに立脚しながら勝利への最短距離から逆算し、選手たちがプレーを選択した松山商。これまで足りず、かつ最も必要とされていた力である。 「この試合で出た課題を反省して、次の実戦に活かす」(大野監督)というサイクルを回しつつ、難敵を6対0で下した松山商。23年ぶり夏将軍復活へ向け確かな一歩を踏みしめたチームは、開会式入場行進のごとく確たる意思で残り4試合を駆け抜ける覚悟だ。