団塊世代は社会保障を明らかに「受け取りすぎ」…現役世代・将来世代はまるで「高齢者の奴隷」!?【経済学者が解説】
70年間で646倍になった社会保険料負担
給付が拡大するならば、当然それに応じて負担も増加する。 名目GDPと社会保険料負担の長期的な動きを見ると、今から70年ほど前の1951年に比べ名目GDPは102.1倍になったのに対し、社会保険料負担はそれをはるかに上回る645.8倍になっている。所得が増えても社会保険料がそれ以上に速いスピードで増えている。これでは手取りが増えず生活にゆとりが生まれない。 家計単位で見た場合、所得と社会保険料の関係はどうなっているだろうか。総務省統計局「家計調査」により、1985年に35~39歳だった、いわゆる団塊の世代と、2019年に同じく35~39歳だった、いわゆる就職氷河期世代の懐具合を見てみよう。 所得は就職氷河期世代が経済成長の効果もあって団塊の世代よりも13%増加したものの、税・社会保険料負担が36.7%、約4割も高くなっている。特に、社会保険料の負担の増加が大きく71.9%、7割以上増加している。 その結果、将来不安もあってか、所得が上回るはずの就職氷河期世代で消費水準が団塊の世代を下回っている。これでは、若者が豊かさを実感できないはずだ。逆に言えば、社会保障制度のスリム化がなければ、今後も一層の家計負担増が避けられない。
残り続ける「右肩上がり時代」の構造
こう書くと、「消費税導入前と比べて社会保険料が上がっているなんて、やっぱり消費税は社会保障に使われていないんだ」と早合点されそうだが、なぜ消費税導入前よりも社会保障負担が増えたかと言えば、元々は少ない高齢者を豊富な現役世代が支えるねずみ講型の社会保障制度(詳細は後述する)を、人口ピラミッドがひっくり返った今でも後生大事に守り続けているのが一番大きな理由だ。 実際、1985年当時、15~64歳の生産年齢人口は全人口の68.2%を占める一方、65歳以上の高齢者は10.3%、うち75歳以上の後期高齢者は3.9%だった。これが2020年では生産年齢人口は59.5%へ低下し、745万人減少したのに対し、高齢者は28.6%、うち後期高齢者は14.8%に上昇し、それぞれ2356万人、1389万人も増加している。 1985年当時は生産年齢人口6.6人で一人の高齢者を支えていたのが、2.1人で一人の高齢者を支えているのだから、保険料が増えるのは当然なのだ。逆に言えば、所得のない高齢者でも負担できる消費税で社会保障を支えようとする現在の政府の方針はごく自然な発想だろう。 成長率予測や株価予測、為替予測、景気予測など世の中に数ある予測の中で、比較的予測が当たりやすいのは人口予測だとされている。もちろん、ピタリ一致の予測は不可能だが、大まかな動向に関しては高い精度で予測できる。 したがって、当然1985年当時においてもバブル期においても、今後、少子化、高齢化の波が押し寄せてくることは確実視されていたし、社会保障制度の改革も断行されていた。しかし、肝心のねずみ講構造に関しては一切手が付けられず、少子化対策や経済成長頼みに終始した。 これは右肩上がり幻想とも言えるもので、今を耐え忍べば元通りの右肩上がりの人口・経済が戻ってくると考えたに違いない。意地悪な見方をすれば、何かしら対策を打っている体を装ったうえで、自分たちの負担が増えるのが嫌で意図的に制度改革を行わず放置した可能性も考えられる。