渡辺えりが語る「前代未聞の古希記念公演」と、相次いで失った「母親」と「母校」への熱い想い
70歳にして2作同時連続上演
劇作家・演出家・俳優の渡辺えりが、1月5日に、古希(70歳)を迎えた。それを記念して、「りぼん」「鯨よ! 私の手に乗れ」の2作を同時連続上演する公演が、1月8日から、東京・下北沢の本多劇場で開幕する。 【写真】何から何まで「前代未聞」の2作連続上演!!
「23歳のときに劇団3(さんじゅうまる)を旗揚げして以来、今回は、すべてが前代未聞の公演です。2本を同時連続上演するのも初めて。2本とも、生演奏が入る音楽劇です。『りぼん』は15分の休憩を入れて上演時間3時間で、このスタイルも初めて。出演者は全部で40人前後、こんな大人数の芝居も初めて。チケット代も平日は10,000円、土日は11,000円。大がかりな公演なので、どうしてもこんな値段になってしまいましたが、これも初めてのことです」(*学生・当日引換など例外あり) と、渡辺えり自身が申し訳なさそうに語る。 「わたしは、フェミニズムと反戦をテーマに、ずっと舞台をつくってきました。そして、70歳になったら、あとは、好きなことをのんびりやろうと思っていました。ところが、この年齢になっても、男女同権は実現しないし、戦争は終わらない。それどころか、ウクライナやガザのように、ますます戦火が拡大している。だったら、抑圧されてきた女性の生き方を描くこの2作を、身体がうごくいまのうちに、やってしまおうと決意しました。もちろん赤字覚悟ですよ。でも、自宅を売り払ってでも実現させるつもりで取り組んできましたから」 古希とは思えない、たいへんなパワーである。それぞれ、どんな作品なのだろうか。 「りぼん」は2003年に、横浜赤レンガ倉庫と青山円形劇場で初演された(企画集団「宇宙堂」公演として)。2007年にオフィス3(さんじゅうまる)公演として再演されている。 昭和39年、東京オリンピックの年の横浜。大正12年の関東大震災。昭和49年の青山同潤会アパート。昭和60年の神津島。昭和64年の池袋。そして同潤会アパート取り壊しの日……戦後、娼婦として働かされるなど、時代に翻弄させられながらも、希望をもって生き抜こうとする女性たちの姿が描かれる。老女たちが住む古アパートで展開する名作ミステリー、戸川昌子の『大いなる幻影』がヒントになっているそうだ。 一方、「鯨よ! 私の手に乗れ」は、2017年初演の作品。2020年に再演を予定していたが、コロナ禍で中止になっていた。そのため、他劇団の上演を除くと、渡辺自身による初めての再演となる。 舞台は、ある地方の老人介護施設。そこに入居している認知症の母を訪ねて、東京で40年以上も演劇を続けている娘が、ひさしぶりに見舞いに訪れる。だがあまりに規則で縛られた環境に、娘は苛立つ。ところが、ほかの同世代の入所者の女性やヘルパーたちが過去を語り出すと……実は彼女たちは40年前に解散した劇団のメンバーで、ここにはかつて稽古場の廃工場があったことが明らかになる。さらに解散直前に上演するはずだった舞台があったこと、さらに母も、その劇団のメンバーだった……。 この「鯨よ!」は、渡辺えり自身の体験を戯曲化したものだという。 「劇中のエピソードやセリフなども、ほぼ実話です。たまたま両親が、介護施設や老人ホームに入ったので、そのときの体験談がもとになっています。老人介護には、多くの問題があること、そこに、わたし自身の芝居に対する考え方や、女性の生き方を重ねました。ちょうどこの芝居を書いたころは、60代になったばかりでした。いったい、いつまで演劇を続けられるか、これから先、どんなことができるのかを、考える時期でした。それだけに、70歳になった時点で再演するのに、ふさわしい作品のようにも思えました」 稽古をはじめたのは、昨年11月15日だった。ところが、 「その前日、14日が母の葬式だったんです」 突如、渡辺えりが、驚くようなことを口にした。