浜松餃子なんて無い? 餃子日本一の裏側(下)──ブーム喜べない餃子店
日本一ギョウザを食べる町の座を宇都宮市と争う浜松市。全国的な知名度を勝ち取った浜松餃子は、県外から食べに訪れる人もいる観光資源に成長した。それなのに、地元にはブームを喜べないギョウザ店もある。 ウナギの敵だと思われて(上)から続く
繁盛が地元客との距離生んだ
天竜川をまたぐ国道1号浜松バイパスそばの「餃子の店かめ」(浜松市東区中野町)を訪ねた。中央線のない細めの道路を進み、砂利の駐車場にレンタカーを止めてのれんをくぐる。店主の藤井剛さん(44)に話を聞くと、ため息を漏らした。「浜松餃子のブームのとき、近所のお客さんが一時離れたんだよね。長い目で見たらよしあしだね」。 かめは、家族を中心に5人ほどで店を回している。取材に訪れた土曜日には、6000個のギョウザを販売した人気店。のれんを下げた後も、常連客が何人も店をのぞきに来た。 浜松餃子が注目されテレビ局の取材が何度も入ると、市内外から客が押し寄せた。生ギョウザが昼には売り切れ、夕方から販売していた焼きギョウザ用が残らない。近所の人は焼いたギョウザを夕食に買って帰りたい人が多いのに、「5年間くらいはずっと、ギョウザを焼く鉄板に火を入れなかった」。商品がなければ、買いに来なくなるのは自然の流れだった。 ギョウザ作りは難しい。浜松では、キャベツを豊富に使う店が多く、その塩もみの出来栄えで味が大きく変わる。季節によって産地が変わり、固さも塩の染み込み具合も日々、異なる。ギョウザを包むにも手間がかかる。この日も、藤井さんは午前5時半から午後3時まで、1人で立ちっぱなしでギョウザを作り続けた。「4000個でいいかと思ったら、予想以上にお客さんが来て、急きょ6000個に増やしたんだよね。遠くから来た人が『すいません、売り切れです』って言われたら、かわいそうじゃん」。ぶっきらぼうだけど、人情味のある口ぶり。野菜の価格が乱高下する中でも、値段はできるだけ安く据え置き、今は1個40円。ギョウザ店主の誇りをにじませつつも、藤井さんは「もうかる商売じゃない」と明かす。人件費をかけて作り手を増やせるほどの余裕もない。