ベッドで排尿や排便を繰り返し10年「私は今崇高なことをしている」 介護する側される側の救世主に?排泄ケアに挑む女性社長の情熱
宇井氏の「排泄実験」は、シャワーで体臭をリセットしてから、おむつを履いてスタンバイする。排泄後は、そのまま60分ほどキープ。その後、風呂場で処理をする。10年以上の開発で「数百回はおむつで排泄した。昨年の製品化にあたっても、1カ月で尿と便のデータを100ずつ取る必要があり、毎日おむつで実験した。スケジュールが間に合わず、ベッドからウェブ会議に参加して、腰から下は排泄実験をしていることもあった」と笑う。 今ではメンバーの3分の2以上が実験に加わっている。ただ“排泄”といっても「膀胱はパンパンなのにどうしてもおむつで出せなくて、“トイレに行っていいですか?”という人もいる。特に排便は腹と太ももの距離が近いと出やすくなっているため、寝た状態では難しい」。精神面も重要で、「今自分は崇高な実験をしている」と念じるそうだ。
においを判断する技術分野は、まだまだ発展途上。「ヘルプパッドには安価なセンサーを使っている。そうしないと、値段を下げられない。空気清浄機やエアコンのタバコ検知センサーのように、細かい情報を判断できないものを使っているが、代わりにたくさんのデータを収集して、AI学習で補っている」。
■テクノロジーは敵? 介護テックの課題と宇井氏の野望
しかし、介護現場では「テクノロジーは敵」との考え方も根強い。開発者は、現場経験がない場合がほとんどで、単にビジネスとして市場に参入するケースもある。しかし介護職員は、利用者の身体に安易に機械を付けたくないと感じ、データに頼りすぎると些細なサインを見逃す危険もあると考えるなど、すれ違いが発生する。 いかに現場の不安を解くか。宇井氏は「介護ロボットは、介護職員の分身だ」と説明するという。「ヘルプパッドは『鼻の部分だけが部屋中に分身している』と伝えるようにしている。敵か味方かと考えた時、本人の分身であれば仲間になる」。 製品の値段はオープンプライスで、数十万円台前半だ。「国の補助金対象商品になっているので、国が4分の3を負担、施設は4分の1の金額で買える。今は施設に限って販売しているが、在宅介護の家族からの問い合わせも多く、2年以内には実現したい」と話す。 政治学者の岩田温氏は、自身が集中治療室へ入った経験から、「排泄できない状態になり、気管切開もしていたため言葉を出せず、ナースコールを押しても意思疎通ができない。結局そのままするしかなく、シーツを替えるなどの負担が増え、こちらも悪いと感じるが、伝えようがなかった。介護だけでなく、病院にも導入してほしい」とした。
すでに病院からは声がかかっているという。「介護者だけでなく、本人のもどかしさを解く意味もある、と言われる」。排泄の検知だけではなく、その先には「においで病気を発見する未来」も見ている。「介護職員で『ノロウイルス患者の便臭がわかる』と言う人がいた。ただ、新人だとわからないので、センサーを進化させてほしいという話はある。また、介護テックの企業は実はたくさんある。だけど知られていない。新しい製品開発だけでなく、今あるものをどう広げるかということも考えている」と語った。(『ABEMA Prime』より)