小田原攻めの秀吉が「一夜で」築いた関東初の総石垣 北条氏の度肝抜いた名城・石垣山一夜城(小田原市)
全国屈指の壮大さ! 必見の「井戸曲輪」
最大の見どころは、二の丸北東側にある井戸曲輪だろう。全国、いや世界でいちばん見ごたえがあり美しい井戸曲輪ではないだろうか。もともと沢のようになっていた地形を利用し、大小の方形スペースを設けたような段違いの空間を、高石垣を堰として囲み貯水している。井戸は二の丸から25メートルも下がった場所にあり、なんと現在でも湧き水が確認できる。全国でもほかに例のない独特な構造は一見の価値あり。これは、本当に必見だ。 近年は小田原市により城内の木々が間伐され、見ているこちらが恥ずかしくなるほどに城の姿が顕(あらわ)になっている。「こんなにも総石垣だったのか!」と、感嘆せずにいられない。中心部から離れた曲輪まで、豪壮な石垣が抜かりなく積まれている。 井戸曲輪の周辺も木々のヴェールがはがされ、ただ井戸を囲むように石垣を積み上げたのかと思いきや、かなり驚異的な設計の曲輪と判明した。想像以上に大胆な構造だとわかり、興奮するばかりだ。周囲の木々が取り払われたことで、小田原城方面に突き出すような設計であることも一目瞭然となった。 驚嘆したのは、曲輪の内側だけに積まれているように見えていた高石垣が、北面と東面北側は外側にも積まれていたこと。本丸北側の10メートル超の高石垣とともに、小田原城からは強烈な二枚壁のように見えていたのだろう。さらに、小田原城方面に続く尾根上にいくつも曲輪が続いており、その広大さと土木量、石垣の膨大さに改めて驚愕(きょうがく)した。
眼下に小田原城 相模湾まで一望
本城曲輪より西南に張り出した天守台が最高地点で、標高は261.5メートル。瓦葺きの立派な天守が建っていたようだ。本丸の展望台をはじめ二の丸から、現在でも小田原城を見下ろすことができる。眼下には小田原城や城下、足柄平野や相模灘、遠くには晴れていれば三浦半島や房総半島も望める最高の立地。北条氏が自信を持っていた小田原城の総構を見下ろせるどころか、相模湾まで一望できてしまう。小田原城を完全包囲する大軍勢の配置まで見渡せ、秀吉はさぞかし優越感に浸っていたことだろう。 #交通・問い合わせ・参考サイト ■石垣山一夜城 https://www.city.odawara.kanagawa.jp/public-i/park/ishigaki-p.html(小田原市) (文・写真 萩原さちこ / 朝日新聞デジタル「&Travel」)
朝日新聞社