「希望ではなく断絶を描くべきなんだ」映画『ふれる』髙田恭輔監督、細部までこだわった映画製作を語る
「他者とのリズムになっていく」 編集時に発見したことについて
ーー美咲はあらゆる物に触れていきますが、陶芸品を触る時に指で弾いて音を確かめたり、森にあるオブジェも音を鳴らして遊んでいます。触覚だけでなく、聴覚も確かめているように感じたのですが、何か意図はありましたか? 「陶芸の倉庫みたいなところに行った時に、唯ちゃんが陶芸品をコンコンと叩き出して、その時は『これは美咲がいつもやってることなんだな』以外は特に考えてなかったんですけど、撮影が進んでいく中で、僕からは何も言っていないのですが、学校の教室で美咲が陶芸をコンコンと叩いてるのを見て、担任の先生も一緒になって叩き始めて…。 編集の時に、これをどうにか生かせないかなと思った時に、最初は美咲自身のリズムだったのが、半径数十センチくらいかもしれないけど、他者とのリズムになっていくという変化を見せることができると気が付いたんです」 ーー『ふれる』というタイトルでありながらも、耳でも確かめるというところが凄くキーポイントになっていると思いました。編集の時に発見したことは他にもありましたか? 「企画の時は構成があったのですが、現場では目の前で起こっていることに意識を向けないと捉えきれなかったので、編集プランを捨てて撮影してたんです。でもいざ編集をしようとなった時に、『どうしよう…繋がらない』ってなりましたね(笑)。 美咲が同級生の陶芸を割ってから、周りの大人が気を遣ってアプローチしたりする芝居があったんですけど、編集時にカットしました。それはあのシーンで触れるということに対しての暴力性と、編集している側の暴力性が重なった瞬間でした。今回の編集作業で、シーンの頭をどこで始めてどう見せるかというのをやりながら学びました」
「森を抜けた時に全く違う世界に出る」 細部へのこだわり
ーーカメラワークについてもお聞かせください。どのショットもとても魅力的だったのですが、特に人物からゆっくりとトラックバックするショットが印象的でした。 「カメラマンからは序盤では陶芸をしている美咲と師匠にトラックインで寄っていき、ラストの方のシーンではトラックバックで2人から離れるという提案をしてくれて。 僕がいいなと思ったのは、最初は世界に入って出会うみたいなことと、後半は彼女がこの土地から、そして師匠から離れていくということをこの映画の前半と後半で見せることができるなと思い、そういうヒントを沢山くれるカメラマンです」 ーー音楽でも作品の世界観が表現されており、素晴らしかったです。音楽を製作された伊達千隼さんとは、どんな共有をされましたか? 「森の中でコンコンとオブジェをいじる感じが、打楽器的なニュアンスがあるなと思ったので、木琴をベースにやりたいと伝えました。 あとは冒頭とエンディングで、ヴァイオリンがチューニングをしている時の音を入れているんですけど、最初1個だったのが、2個になり、3個、4個と音が重なっていくのもお願いしました。 これは母親が亡くなったことの影響を一番受けているのは主人公かもしれないけど、その周囲の人たちの線も、ある一つのきっかけから変わって、重なり合う瞬間もあれば、別れていくみたいな、そういういくつもの線があるということを音楽で表現できないかとお話させてもらって、出来上がったものに対してその都度方向性を確認しながら作っていきました」 ーー本作を製作するにあたり、参考にした映画やお好きな作品はありますか? 「子供が出る映画を撮りたいと思っていたので、子供が出演している映画を観漁っていた時期があったんですけど、映画を始めるきっかけになったくらい好きな作品で、本作でも影響を受けているのはビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』です。 あとは、カルラ・シモン監督の『悲しみに、こんにちは』という作品と、即興でやりたいと思わせてもらった作品は、諏訪敦彦監督の『ユキとニナ』という作品です。 この映画では森を抜けると、お母さんが暮らしていた土地があって、なぜかかつてのお母さんと出会うというシーンがあり、森を抜けた時に全く違う世界に出るというのは、諏訪さんの作品から学んだエッセンスです」 ーー最後に本作を観る方にメッセージをお願いします。 「主演の鈴木唯さん含め、俳優たちが本当に魅力的に映った映画だという自信だけはあるので、是非俳優たちを観に来て欲しいです」 (取材・文:福田桃奈) 【作品情報】 鈴木唯 仁科かりん 河野安郎 水谷悟子 松岡眞吾 吉田晏子 監督・脚本・編集/髙田恭輔 撮影・照明/市川雄一 録音・整音/土手柚希 美術/黒田晴斗 助監督/宮川彰太郎 杉岡岳 音楽/伊達千隼 2023/日本/カラー/アメリカンビスタサイズ/ステレオ/60分 配給/アルミード
福田桃奈