【ネタバレあり】『室井慎次 生き続ける者』を観て考える“老いと死” シリーズ最大の異色作に
【ネタバレあり】『生き続ける者』のタイトルに込められた思い
後編となる『生き続ける者』では、大雪の嵐の中で飼い犬のシンペイを探すために外に出た室井が遭難し命を落とす。 シリーズを支えた重要人物の結末としては、あっけない幕切れだったが、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)でやったことを禁じ手とし、劇中で派手な殉職場面を描かずに「事件に大きいも小さいもない」と言い続けてきた『踊る』シリーズらしい結末だと感じた。 タイトルに「生き続ける者」とあるのに「室井さんが亡くなるなんて!」と初めはショックを受けたが、おそらく「生き続ける者」とは室井の志や生き様のことなのだろう。彼が挫折したと思った警察警察の組織改革という夢は新城賢太郎(筧利夫)と沖田仁美(真矢ミキ)に引き継がれ、事件被害者の子供を里親として育てる室井の志もタカたちに引き継がれるのだろう。そして秋田の室井の家に青島が訪れる場面を描くことで『踊る』シリーズの再始動を予感させて、物語は幕を閉じた。 実写映像作品としての『踊る』の面白さは、劇中の時間が現実と同じように進んでいるため、観客と役者がいっしょに年を重ねていくことにある。 そのため、青島や室井といった劇中のキャラクターたちが自分と同じ現実を生きているのではないかと錯覚してしまいそうになるのだが、この映画を観終えたことで、青島や室井の実在感がより増したように思う。 20歳の時にテレビシリーズを観て以来、自分にとって『踊る』は一歩先にある大人の生き方を見せてくれた作品で『踊る』シリーズを観ることによって「社会で働くとはこういうことなのか」と学んできたように感じる。 そして今回の『室井慎次』では、老いと死について考え「これから、どういうふうに年を重ねればいいのだろうか?」と自分自身に問いかけている。
成馬零一