苦しい夏を乗り越えてきた「あの負け」から5か月の成長の証。前橋育英は共愛学園にインターハイ予選のリベンジ完遂で27回目の全国切符!:群馬
[11.9 選手権群馬県予選決勝 共愛学園高 0-3(延長) 前橋育英高 アースケア敷島サッカー・ラグビー場] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 インターハイ予選で負けた相手と、再び対峙する機会がやってきた。あれから5か月。この試合のために苦しい夏をみんなで乗り越えてきたのだ。前回と同じ結果をたどる選択肢なんて存在しない。勝って、冬の全国へ行く。みんなで優勝カップを掲げてみせる。 「試合前の円陣の時に『夏に共愛に負けて、全国に出られなかった悔しさを思い出して、勝ちたいという気持ちを前面に出そう』ということを言ったので、それが試合でしっかり表現できていたのが良かったですし、ホッとしたという感情が一番大きかったかなと思います」(前橋育英高・石井陽) 夏のリベンジを達成して、堂々の群馬制覇!第103回全国高校サッカー選手権群馬県予選決勝が9日、アースケア敷島サッカー・ラグビー場で行われ、インターハイ予選の群馬王者・共愛学園高と県4連覇を狙う前橋育英高が対戦。試合は延長でゴールを重ねた前橋育英が3-0で勝利。4年連続27回目の全国出場を手繰り寄せている。 「『今日の試合はリベンジだ』と、『同じ相手に二度負けてはダメだろ』という話はしました」と明かすのは前橋育英を率いる山田耕介監督。共愛学園と前橋育英は6月のインターハイ予選準決勝で対戦しており、共愛学園がPK戦の末に勝利を奪うと、そのまま決勝戦も制して、同校初の全国出場権を勝ち獲ることになった。 この日の試合はリベンジを誓うタイガー軍団が、フルスロットルで立ち上がる。前半2分にはMF柴野快仁(2年)が左へ振り分け、MF竹ノ谷優駕(2年)が上げたクロスをMF白井誠也(2年)がダイレクトで叩いたボレーはクロスバー直撃。10分にもDF瀧口眞大(2年)の右クロスをFW佐藤耕太(3年)がダイレクトボレーで枠内へ。ここは共愛学園GK佐藤明珠(3年)がファインセーブで凌いだものの、いきなり2つの決定機を創出する。 23分も前橋育英。MF黒沢佑晟(3年)、佐藤と繋いで、MF平林尊琉(2年)が枠へ収めた強烈なシュートは佐藤明珠がキャッチ。25分も前橋育英。平林の右クロスから佐藤耕太のシュートは、ここも佐藤明珠がキャッチ。28分も前橋育英。右からキャプテンのMF石井陽(3年)が蹴り込んだ右CKに、ニアへ入った竹ノ谷のヘディングはわずかにゴール右へ。得点の予感を漂わせ続ける。 ただ、「力は向こうの方があると思っていたので、それをどうこちらが粘り強く戦うかがポイントでした」と奈良章弘監督も話した共愛学園は、前線からFW鈴木光(3年)とFW藤巻頼輝(3年)が果敢にプレスを掛けながら、最終ラインはキャプテンのDF阿久津祐樹(3年)とDF天田諒大(3年)のセンターバックコンビを中心に、相手の猛攻にも粘り強く対応。前半の40分間はスコアレスで推移する。 共愛学園に千載一遇の先制機が訪れたのは後半15分。左サイドで獲得したFKをMF村山優成(3年)がファーまで届けると、DF小山桜我(2年)は頭で中央へ。MF清水陽太(3年)がここも頭で残すと、「『あ、来た!』と思って、ちょっとコースを変えるフリックみたいな形で触りました」という天田のヘディングは、しかしクロスバーにヒット。スコアは動かない。 「『今日もそう簡単ではないな』というのは試合をやりながら感じていました」(石井)。命拾いした前橋育英は再び攻める。18分。高い位置でボールを拾った黒沢の鋭いシュートはわずかに枠の左へ。27分。竹ノ谷と平林がボールを回し、ポケットを取った柴野の際どいクロスは佐藤明珠が懸命のパンチングで回避。30分。石井の縦パスを懸命に収めた佐藤耕太の左足シュートは、佐藤明珠がキャッチ。0-0の緊迫した時間が続く。 「後ろは粘れるなというのもあったので、耐えるのはキツかったですけど、耐えて、耐えて、1本のチャンスをものにしようとみんなで話していました」(天田)。押し込まれる共愛学園はとにかく耐える。右はFW金子文飛(2年)と清水、左は小山とMF中野一楓(3年)が縦関係を組んだ両サイドバックと両サイドハーフも守備に奔走。ボランチも奮闘したMF木内慧(2年)からMFエルデン・バータル(2年)にスイッチして、中盤のフィルターを強化し、我慢しながら聞いた後半終了のホイッスル。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦へと委ねられる。 「『勝負はそんなに簡単じゃないぞ』『後ろは絶対にゼロで守るから、前は絶対に点を獲ってくれ』と。『それぞれの意識を合わせて、1人1人ではなく全員で戦うことを意識しよう』と話しました」(石井) タイガー軍団の絶叫は延長前半7分。柴野から高い位置を取っていた瀧口にボールが入ると、佐藤に当ててそのまま前へ。「『もう打っちゃおう!』みたいな感じで、あまり深くは考えずに思い切り打ちました」というシュートは右スミのゴールネットを豪快に揺らす。2年生右サイドバックが叩き出した先制弾。前橋育英が一歩前に出る。 王者、炸裂。10分。石井が左から蹴り入れたFKがこぼれると、体の強さを生かして収めた途中出場のFWオノノジュ慶吏(3年)が左足で打ち切ったシュートは、ゴール右スミへ吸い込まれる。延長後半6分。藤原のキックにこちらも途中出場のFW大岡航未(2年)が競り勝ち、佐藤を経由してオノノジュが優しいラストパス。大岡が左足で流し込んだボールは、ゴールネットへ到達する。 「前半のゲーム内容で1点入っていれば楽だったんですけど、おそらく接戦にはなるんだろうなと我々も覚悟はしていたので、決定機をなかなか決め切れなくても、イライラせずに、焦らずに、必ずチャンスは来るからということで、一貫して彼らもやったんだと思います」(山田監督)。ファイナルスコアは3-0。延長までもつれた激闘を前橋育英が制し、4年連続となる冬の全国切符をもぎ取る結果となった。 前述したように前橋育英は今年のインターハイ予選準決勝で、共愛学園相手にPK戦で敗退。県7連覇を阻まれ、全国大会の出場も逃すという、小さくないショックを突き付けられた。 「夏は本当に悔しい想いが大きかったです。全国でいろいろな高校が活躍していましたし、プレミアでやった相手でも昌平は優勝していて、その中で自分たちは全国にも出られていないという中で、モチベーションを保つのが難しい期間が多かったんですけど、その中で自分たちの弱さをもう1回見つめ直して、厳しく言い合うところも言い合って、褒めるところもしっかり褒め合って、この夏は全員で切磋琢磨して乗り越えてきました」(石井) 3年生が携え直した決意を、10番を背負う2年生もはっきりと感じていた。「もともとみんなポテンシャルは高いと思うんですけど、チームの雰囲気とか試合をやっている時の声掛けとかが、どうしてもうまくいかない時期が続いていた中で、3年生が2年生ともよりコミュニケーションを取ってくれて、2年生も3年生に遠慮なく言える空気ができてからは、チームの雰囲気作りも楽になりましたし、練習から雰囲気良くできるようになったから、結果が付いてくるようになったのかなと思います」(平林) 9月に再開されたプレミアリーグEASTの後半戦では、ここまで7試合を終えて5勝2敗という好結果を残し、既に前半戦の11試合で獲得した勝点を上回る好調をキープ。「今は本当に“あの負け”からチームが変われたなと思える状況かなと思っています」と石井もチームが変化している手応えを実感していた。だからこそ、この日の試合に勝って、共愛学園にリベンジを果たした上で、全国へ挑戦する権利を手にすることは、本当に“あの負け”から自分たちが成長してきたことを証明するためにも、何より重要だったのだ。 試合後に山田監督が興味深いことを教えてくれた。「僕らは『残り試合は10連勝しよう』と言っています。そうするとプレミアもチャンピオンになる可能性がありますし、相当難しいですけど、これで優勝を獲得できたから、そこにチャレンジできますよね」。現在プレミアは3連勝中。選手権予選も3連勝で優勝に輝いた。残されたリーグ戦は4試合。そのすべてに勝って、選手権へ堂々と乗り込んでいく算段を立てられるぐらい、彼らは間違いなく自信を纏い始めている。 少なくない悔しい経験を糧に、一歩ずつ、一歩ずつ、前に進んできた2024年の前橋育英が逞しく狙うのは『10連勝』と、その先に控えている晴れ舞台の頂点。ここから国立競技場で行われる最後の1試合まで、タイガー軍団はすべての試合で勝利を掴んで駆け抜ける覚悟を整えている。 (取材・文 土屋雅史)