「夢の新技術」ペロブスカイト太陽電池…積水化学、パナソニック、アイシンが直面する実用化への共通課題
■ 高性能化の決め手となるのは「既存事業で培った技術」 ──著書では、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた「耐久性」や「変換効率」についても言及しています。こうした課題について、メーカー各社の動向で注目している動きはありますか。 葭本 耐久性という面での課題は、「耐久性の確保」と「低コスト」の両立です。例えば、フィルム型太陽電池は基板に用いるフィルムが水を通してしまうので、水分をほとんど通さない「バリアフィルム」で保護する必要があります。しかし、バリアフィルムはペロブスカイト太陽電池にかかるコストの約3割を占めるという試算があり、防水性を確保しつつ、低コストで作れるバリアフィルムの開発に素材メーカーなどが挑んでいます。 また、バリアフィルムと並んで高いコスト割合を占めるのが、フィルム基板に被覆する「透明電極」です。透明電極には一般に、酸化インジウムスズ(ITO)を材料に使うのですが、ITOに含まれるインジウムが高価で、フィルム型ペロブスカイトのコスト増の要因になっています。そこで低コスト化を図るため、「銀ナノワイヤ」をはじめとする代替材料の研究も進んでいます。 変換効率の面での課題は、大面積化したときに高い変換効率を出すことが難しい点です。変換効率を高めるためには、ペロブスカイトの層の厚さや品質を均一に成膜する必要がありますが、面積が大きくなればなるほどムラが出やすくなります。したがって、完成品メーカーとしては、「溶液をどれだけきれいに塗って乾かせるか」という成膜技術が鍵を握ります。 例えば、積水化学工業はロール・ツー・ロール(R2R)で基板を搬送し、細長いスリットから液体を出して幅広に塗っていくダイコートという方法を使っています。パナソニックは有機EL事業で培ったインクジェット技術を活用し、リコーは産業用インクジェットプリンター事業で蓄積した技術を使ってペロブスカイトを塗布しています。アイシンは本業である自動車部品の塗装で用いるスプレー法を使っています。 このように、「どのような環境でどのように溶液を塗り、どのように乾かすか」という成膜技術は、各社が既存事業で培ってきた技術をベースに最適化を図っており、ペロブスカイト開発の興味深い点と考えています。