脳性麻痺のヴァイオリニスト式町水晶、障害と闘い、いじめと自分を乗り越えて
「僕は、お客様の心に寄り添えるヴァイオリニストになりたいんです。カーネギーホールに出たいとか、すごい野望とかはないんですよ」 そう言って屈託なく笑う。 「コンサートでも、お客様に愉しんでいただくのを最高に考えています。気軽に来てくださるお客様に、僕の音楽を身近なものとしてとらえていただきたいですし、もし何かつらいことがあって泣きたくても泣けない人がそこにいたら、涙を流すのはいいことだから、こらえている涙をそっと外側に出してあげられるような、そんな演奏をしたい。そしてそれが明日からの活力になってくれるなら、こんなに嬉しいことはありません」 式町は障害を乗り越えたのではなく、自分自身を乗り越えることで、今日のヴァイオリニスト・式町水晶になった。闘うための武器であったヴァイオリンは、いまその音色が人々の気持ちに、ただひたすらにやさしく寄り添う。 (取材・文・撮影:志和浩司)