認知症の「排泄ケア」 気をつけるべき点は?
「快食・快眠・快便」といわれるように、「排泄」は人が生きていくうえで欠かせない一つの要因です。65歳以上の高齢者のうち推計で15%、2012年時点で約462万人に上ると言われる認知症の人たちのQOL(Quality Of Life=生活の質)を保つために「排泄ケア」は欠かせません。 しかし、内閣府の調査によれば、介護経験のある人の約6割が「排泄(排泄時の付き添いやおむつの交換)」に苦労したと答えています。また、日本における高齢者虐待事件の直接的な原因の多くは、排泄に関わるとも言われています。認知症の方のQOLを維持するために必要であるべき「排泄ケア」が、実は介護者に強くストレスを与えていることも事実なのです。 「排泄ケア」は人としての尊厳を守るケアと話すNPO法人日本コンチネンス協会会長の西村かおる氏に「認知症」と「排泄障害」「排泄ケア」の関係性を聞きました。
原因が一つではない「排泄障害」
―――認知症の方の排泄障害について教えてください。 認知症の方が尿や便をうまく排泄できない原因は一つではありません。泌尿器や消化器のトラブル、トイレの場所や洋服の脱ぎ方がわからないといった判断力の低下、トイレ移動や便器に座るといった運動能力の低下、そのすべてが複合的に組み合わさって原因になるのです。 たとえば、脳卒中や脳梗塞などが原因の脳血管障害による認知症の方には、運動能力の低下や神経因性膀胱、つまり神経が損傷されることによって起きる頻尿や尿失禁などの症状もみられます。加えてその方に失語症や嚥下(えんげ)障害があれば、食事がうまく摂れないことや薬の副作用による排便障害が起きるケースもあります。アルツハイマー型認知症の方も服用する薬の副作用を受けやすいですね。いろいろな要因がすべてだったり、組み合わさったりして、排泄がうまくできなくなるのです。
―――どのように排泄ケアをするのがよいのでしょうか。 原因が複合的なので、それに対するケアも非常に複雑になりますから、それぞれの原因に対して対策を立てながらケアをする必要があります。トイレまでの移動が難しい場合は手すりを付けるなど環境を整える、脱ぎ方が分からなくなった方には脱ぎ着しやすい下着に替えるなどが効果的です。トイレに行くことがわからなくなったのであれば、その方の排便の時間を見計らってトイレに誘います。 また、泌尿器の問題から頻尿で尿が漏れやすいのであれば治療、薬の副作用による便秘があるなら薬の調整が必要になります。食事が原因の場合は食事の形態を変えたり、食物繊維を増やしたりなどの工夫を要しますが、嚥下がどうしてもうまくできない場合は経官栄養や胃瘻(いろう)も視野に入れなければなりません。