大阪はアートとデザインの街となるか? Osaka Art & Design 2024の見どころをレポート
Osaka Art & Design 2024の見どころを巡る
阪急うめだ本店ではHANKYU ART FAIRとして、名和晃平、大庭大介、ヤノベケンジなどのアーティストが参加するアートフェアが行われている。ディレクターは椿昇。単管パイプでこしらえられた会場もふくめ、さしづめARTISTS' FAIR KYOTOの大阪版といった展開だ。 梅田・阪急うめだ本店前のコンコースウインドウでは、松村咲希、油野愛子、BAKIBAKI、Mon Koutaro Ooyama、たかくらかずき、顧剣享の作品が並ぶ。 高島屋大阪店6Fでは、「NUNO × we+ テキスタイルインスタレーション OSAKA nuno nuno」が開催。かつて大阪が国際都市として栄えたことに倣い、日本各地から布の素材を集めた。久留米や鶴岡、京都、桐生の4つの産地から集めた布の巨大なキューブが回転している。それぞれの質感が間近でわかるように入り込める空間構成になっていて、サンプルを触ることもできる。釣り糸や反射する繊維など、様々な素材と技術が見て取れる。なお高島屋の担当はこのために天井にライトや電源を仕込んだというほどの気合の入れようだ。 タカラスタンダード×川田知志によるコラボレーションはインテリアとしてもアートとしてもとても目を引くものだった。フレスコ画で川田が描きおろした原画を撮影し、インクジェット印刷で原寸大にホーローパネルに焼き付けた後、さらに曲線でカットしパズルのピースのように分割している。 2023年に阿波座に誕生した、レストランやショップ、床屋、サウナ、ギャラリー、バーなどが集結する複合施設ESC Garage & Club。代表の池田浩八は「阿波座は人口は多いが、これまで商業があまり進んでいないエリア。阿波座の新しいスポットの象徴的な存在になれれば」と意気込む。 その一角でパリ在住のユニット・NONOTAKのインスタレーションが展示されている。白一色の光と音響で体感する作品だ。 夜は正面からガレージを覗けるようになり、光によって建物が揺れているようにまで感じられるそうだ。なおNONOTAKは、東京では「Shibuya Sakura Stage」に巨大作品が常設展示されるという。 「大人の遊び場」がコンセプトのラグジュアリーホテル・W大阪での展示は工藤玲のネオンを用いた作品「VAPID」。工藤はアメリカとウクライナでネオンの技術を学んだ経験を活かし、現在は京都を拠点に制作する。 デザインのプロトタイプが世に出るとしたら 通常日の目を見ることのないままの試作品はこの世に数多存在する。では、アトリエや倉庫に眠っているそれらが出てくるとどうなるか? Osaka Art & Design コンテンツディレクターの増井辰一郎の企画「HIZO market OSAKA Art & Design 2024」では、Teruhiro Yanagihara、堀木エリ子など著名デザイナーのほか、西陣織の細尾真孝、建築家/美術家として活動する佐野文彦など33組が参加し、プロトタイプやそれらを改良したものを出品している。 プロダクトデザインに限らず、アートや建築、様々な領域の横断が「HIZO」というキーワードのもと一堂に会する、Osaka Art & Designらしさの出たイベントとなっている。なお、能登半島地震のチャリティーとして売上の一部が寄付される。 木材の価値再生をデザインの方法論から 大阪を拠点にするクリエイティブユニットgraf。中之島のgraf Studioの2Fはオルタナティヴスペース「graf porch」となっているが、今回そこに展示されているのは廃材となるはずだった木材だ。 かつて日本の山林は、ハウスメーカーからのリクエストで住宅建材のために育てられてきた。しかし安価な輸入材によって需要が失われ、山林は荒廃し、樹齢100歳の木が余っている。それでも将来を見据えて植林を辞めるわけにはいかないという状況に陥っている。 そこで山のためにも、木材を余らせている製材所、材木屋、さらには消費者のためにもなるよう、デザインありきではなく木を見てデザインすることを取り入れた。 ローテーブルは放置されたトチの木を用いている。脚は伝統的な櫓組みで、細くても重いものを支えられる。奥の花台は虫食いを取り除いて残った部分でつくられていて、いずれももとの木をそこなわないデザインだ。 grafはここ数年バイオマスエネルギーにも取り組み、デザインの方法論から新たなビジョンを導こうとしている。 市内のアートスペース、ギャラリーも多数参加 「Osaka Art & Design」は周遊型のイベントとして、同時期に市内のアートスペース、ギャラリーも巡れるのも醍醐味だ。 Tokyo Art Beatではメインの展示にOsaka Art & Design 2024のタグを付けているので、ここから目星をつけておこう。 TEZUKAYAMA GALLERYでは、加藤智大 「binary」と鈴木雅明 「Follow the Reflections」が同時開催中だ。加藤は5年ぶり3回目となる個展で立体も平面も多数発表、鈴木は2006年に描いた作品と同じ風景を再制作するなど、見どころが多い。 エスパス ルイ・ヴィトン大阪で開催中のアイザック・ジュリアンの個展「Ten Thousand Waves」はおよそ50分の映像が9つのスクリーンで流れる大作だ。映像の全編はもちろん、その背景に迫ったレポートとインタビューもあわせて読んでおきたい。 万博に浮き立つ大阪・関西圏の行方は 順調に拡大するOsaka Art & Design。オープニングでは、昨年のパーティーよりも3倍以上の参加者がいたように感じられた。ミャクミャクの髪飾りをつけたゲストがパーティーで目を引いたように、その盛り上がりの先のひとつのマイルストーンは、紛れもなく2025年開催予定の大阪・関西万博だ。そして誰しもが万博のさらにその先まで見据えないことには始まらない、とも口にする。当然ながら、すでに山ほど議論がなされているように、大阪・関西万博でのレガシーはどうなるのかというのは大きな課題だ。 先述のgrafは、いまでこそ大阪を代表するデザインの企業ではあるが、創業当初は大阪にはデザインで働く場がほとんどなかった、というのは代表の服部滋樹の言葉だ。 grafを始めた27年前から日本も大阪の現場も大きく変化した。デザインの実践をする最前線で培われた知見が1970年から時を経た新たな万博へ活かされない、と考えるほうが不自然だろう。 この熱気をポスト万博に向けてどうサステナブルなものにするかという問いへのひとつの回答は、もしかするとHIZO marketやgrafの取り組みなど、Osaka Art & Designの企画のなかに見いだせるのかもしれない。
Xin Tahara