【リバプール・分析コラム】なぜ遠藤航の序列が下がったのか。新監督が求めるアンカー像とは
プレミアリーグ第1節、イプスウィッチ・タウン対リバプールが現地時間17日に行われ、0-2でアウェイチームが勝利を収めた。リバプールはアルネ・スロット新体制における公式戦での初陣では幸先良いスタートを切ることに成功した。一方で遠藤航に出場機会が訪れることはなかった。なぜ、リバプールでの日本代表MFの序列が下がったのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】新体制初勝利!イプスウィッチ・タウン vs リバプール
●後半にギアを上げたリバプールが開幕戦を勝利 2024/25シーズンのプレミアリーグが開幕した。2001/02シーズン以来のプレミアリーグでの戦いとなるイプスウィッチ・タウンは、ホームに強豪リバプールを迎え入れての開幕戦となった。 イプスウィッチの本拠地ポートマン・ロードは素晴らしい雰囲気に包まれ、久々のプレミアリーグを楽しむサポーターの後押しを受けた選手たちが躍動。近年のプレミアリーグを牽引してきたリバプール相手に前線から高い強度でプレッシャーを与え、前半を自分たちのペースで進めた。 前半が終わった時点でのスタッツは、イプスウィッチがシュート4本だったのに対してリバプールが3本。ゴール期待値も0.38 vs 0.1と上回った(『The xG Philosophy』を参照)。 このまま昇格組がペースを握るかと思われたが、9年間監督を務めたユルゲン・クロップからバトンを引き継いだアルネ・スロット新監督のチームが後半に実力をみせる。 イプスウィッチの強度が前半と比較して緩くなったところを逃さず、攻め方のバリエーションを増やして60分と65分にゴールをゲット。そのほかのシーンでも多くの決定機を作り出し、結果的には2-0というスコア以上の差をつけて完勝を収めた。 新体制でチームは順調なスタートを切ったが、昨夏にリバプールの選手となった遠藤航に出番が訪れることはなかった。 なぜ、日本代表MFはスロット新体制で序列が下がってしまったのだろうか。前体制との比較を交えながら考察する。 ●クロップ旧体制とスロット新体制でのアンカーの役割の違い クロップ体制とスロット新体制では、遠藤のポジションであるアンカーに求められていることが大きく異なる。明確に違うのが、最終ラインの選手がボールを持っている時の立ち位置だ。 クロップ体制にて、アンカーのポジションで起用されていた遠藤は、プレスをかける相手のFWの後ろでボールを受ける機会もあったが、場合によっては味方CBの間に一列下がって組み立てに参加していた。これは昨シーズン序盤に後ろ向きでボールを受けた際にロストしてしまうなど、技術面で不安定さを見せたことによる解決策であり、これによって日本代表MFのウィークポイントを隠すことに成功していた。 一方のスロット新監督は、アンカーの選手を常に相手FWの背中側に立たせることを徹底している。アンカーの選手がこのポジションを取ることで、相手のツートップの死角にパスコースを作り出してパスを引き出す。これによって、相手のボランチやCBを前掛かりにさせ、ライン間や裏のスペースを活かした疑似カウンターを発動させる。 両SBもやや内側に絞ることで、CBからのパスコースをWGと中央の両方に生み出す工夫をしており、ほとんどの攻撃が中盤を経由してから始まる。 やや狭い距離感でのパス交換も多いため、少しのタッチのズレやターンの失敗が相手にショートカウンターを食らうキッカケとなりかねない。となると、遠藤よりも技術的に優れた選手たちが優先的にアンカーのポジションで起用されるのは必然的で、現時点ではライアン・フラーフェンベルフがファーストチョイスとなっている。 実際にイプスウィッチ戦でのフラーフェンベルフのパフォーマンスは素晴らしかった。 ●新体制で見られたアンカーを経由する得点パターン 60分と65分に生まれたどちらの攻撃もフラーフェンベルフを経由している。 先制点の場面では、途中投入となった右CBのイブラヒマ・コナテがボールを受けると、フラーフェンベルフが左サイドから彼のいるサイドに動き直してパスを引き出した。そこからモハメド・サラー、トレント・アレクサンダー=アーノルドとテンポよく繋がり、最後はディオゴ・ジョタがネットを揺らして、前掛かりとなった相手の裏を取るお手本のような疑似カウンターが決まった。 65分の2点目の場面では、フィルジル・ファン・ダイクがフラーフェンベルフに縦パスを当て、それをダイレクトで戻してからオランダ代表DFが得意の裏へのフィードを通してサラーのゴールを演出した。 2点目のシーンのように、裏へのロングボールを狙う場面であっても一度は中盤を経由している。リスクを考えれば、そのまま裏に蹴り出すのが最善策となるだろうが、スロットの戦術ではCBとアンカーの間でのパス交換をすることで、一度相手の守備の矢印を前向きにさせている。ミスをしてボールを失う可能性があってもこれを徹底している。 スロット新監督が理想としている、狭いスペースだろうが関係なしに積極的にボールを受けに行き、なおかつ失わないことが求められているアンカー像のタイプとボール奪取を最大の持ち味としている遠藤のタイプは現状では合致していない。 現在地ではフラーフェンベルフの方が前にいることは間違いないが、かと言って遠藤にチャンスが訪れないわけではないだろう。残りの移籍市場で新戦力を獲得した場合は変わってくるが、ボールを保持する強豪との試合となれば、リバプールが最終ラインから組み立てる機会は減り、逆に前線からの守備が重要となる可能性がある。 そういった際に存在感を発揮できるのは、フラーフェンベルフではなく遠藤だろう。前線からの連動したプレスが機能すれば、決まった守備範囲で驚異的なボール奪取力を発揮する日本代表MFが活きてくる可能性がある。新指揮官の戦術的なオプションの一つになれるかどうかが、今夏のリバプール残留の最低条件となるだろう。 (文:安洋一郎)
フットボールチャンネル