《ブラジル》記者コラム=平和教育の根底にある家族の秘話=戦争ゆえに自分は生まれたとの自覚
平和を希求する若者の声
松柏大志万学院の卒業生、丸藤エイイチ・ウイリアムさんは、大分県から15歳で移住して一度も訪日していなかった祖母を連れて、2023年に日本を観光旅行した思い出を披露。「故郷の町でおばあちゃんはタクシー運転手に親戚の情報を伝えると、なんとかたどり着くことができ、再会を果たし、日伯の家族の歴史が繋がった瞬間を目の当たりにした。世界を別の眼で見られるようになった」との感動の訪日体験を語った。 未来アカデミーの磯本徳田ジューリア・アヤさんは「戦争をしていない国に生まれたこと、毎朝起きて食べ物があることに感謝したい」、文協青年部の丸山レオナルドさんは「恩赦委員会で戦争中の日本移民迫害に正式謝罪したが、先祖の名誉のために戦った皆さんに感謝したい」などと平和に関する意見を述べた。 日系医師協会の矢内チエミ・タイスさんは「今年、子供の頃からの夢だった広島平和記念資料館に行った。10歳の女の子が原爆に晒された生々しい経験など、目をそむけたくなる展示が続々とあり、心底戦争の悲惨さを考えさせられた。思わず米国の非道さをなじりたくなったが、ふと、米国側にも多くの死者がいることに思い至り、物事を両面から見る大事さを思い知らされた。日々の自分は細かいことに不満を抱いてばかりだが、史料館を見て今の自分が置かれた平和な状況が実は価値あるものだと気づいた」と語った。
伝統と未来を調和させる実験の最中
日系社会ではついつい「日本文化優越論」的な方向に議論に向かいがちなところがある。だが真由実さんが以前から強調しているのは、「教育の現場で日本文化は優秀だとか、日系人は頭が良いと、韓国人やユダヤ人などの子孫に説いても意味はない」という実践的な教育者の視線だ。 だから彼女は「日本文化の中から民族を超えて役立つ考え方を抽出し、それを広めることが重要。例えば『感謝』(グラチドン)の思想を皆に教えている。どんな人にも、みな『自分の人生』がある。それがあるのは、ご先祖様がいてくれたおかげ。ご先祖さまの誰一人欠けても私は存在しない。その繋がり、流れの結果として、私は存在する。そして私はウニコ(唯一)だ。ウニコで他の人とは違うから、自分の人生には価値がある。そのことに感謝するのは、人種・民族を超えて大事なこと。そこから説き広げることで普遍的な価値になる」と切々と語る。 「戦争のおかげでブラジルに生まれ、その人生の学びを教育者として教えている」真由実さんの存在は類まれであり、まさにウニコだ。 同じように伝統的な「靖国講」を現在も続けるにあたって、若者にも受け入れられる平和教育のイベントとして組み直したのが、靖国平安の会「慰霊祭」だといえる。 神棚が置かれた祭壇がしっかりと作られ、榊が奉納され、靖国神社の写真がプロジェクターで映写されている。よく見ると祭壇には、開戦前に訪日して、太平洋戦争で終戦直前に特攻した子供移民、高須孝四郎(45年8月9日、神風特攻で戦死)の遺言状も祭られていた。
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