悲惨な職場と指摘されて志望者も激減<霞が関の中央官庁>。なぜ抜本的な対策が打たれないかというと…元キャリア「その理由は人口減少や少子高齢化と同じ」
◆国民はどういう形でその影響を実感するか 霞が関の機能不全を導くのは、大まかに次の四つの要素だ。 まず、現職官僚のモチベーションがガタ落ちであること。かつてのような世間からの敬意もなければ、出世スピードもエリートと称するにはほど遠く本省課長にさえ栄達できない。 その一方で、仕事が激増するばかり。部下は増えない。酷使されるだけの存在に成り果てた官僚には働くモチベーションがない。それは何より若手官僚の離職率の高さに表れている。 二つ目は、労働条件が過酷すぎて、優秀な頭脳を生かし切れていないことだ。官僚の最も重要な役割は政策の企画立案だが、相変わらず、国会答弁の作成や調整業務に追われていて、知的業務に割く時間がない。 その一方で、官僚の能力が劣化している可能性も捨てきれない。 まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)だ。デジタル庁の職員の多くが民間からの出向であることからわかるように、霞が関の生え抜き官僚にはDXを進める能力はない。東京五輪やコロナ禍で行われた事業では電通などの民間企業に多くの業務が委託されただけでなく、そこでさまざまな不祥事が発覚したが、これも霞が関が自ら巨大イベントを仕切りきれないことを露わにしている。 歪んだ官邸主導の弊害が三つ目だ。 官邸主導自体は求められることだが、安倍政権で問題となったように、首相の取り巻きである官邸官僚からインフォーマルに指示が出るなど混乱も多かった。何より人事権を握られた官僚は萎縮した挙げ句に、やる気を失っていった。 最後は、優秀な若手官僚が入ってこないことだ。東大生が減少するから官僚の質が下がるというのは短絡的であるとは思うが、志願者数が減少すると人材の質が低下するのは事実でもあるだろう。
◆国民生活への影響 それでは霞が関が機能不全に陥った時、国民生活にどういう影響が及ぶのだろうか。 おそらく、多くの国民は政治がカネの問題で空転に空転を重ねても日本という国が動いているように、官僚がモチベーションをなくして、すり切れた状態になったところで、大きな影響など及ぶものかと高をくくっている。 1990年代半ばくらいまでなら、政治や官僚がどれだけ機能不全に陥っていても、経済が自動的に成長していて国民生活には何ら影響がなかったが、今の時代は果たしてそれですむだろうか? ここでは三つの事例をあげてみる。 まず、官僚が疲れ果て誤字脱字などの些細なミスを連発する、そんな事例からいこう。 たかが誤字脱字じゃないかというが、国民に義務を課す法案のミスなら国民生活に大きな影響が及ぶ。 例えば、鳥インフルエンザが近い将来猛威をふるったとしよう。強毒性で言えばコロナの比ではないことを考えると、マスク着用を「義務化」すべきだという結論になったものの、仕事で疲れ果てていた現場の官僚が「努力義務化」と間違って法案に書き込んだ挙げ句、愚鈍な国会議員がチェックしないままに、この法案が成立するとどうなるのか? 「義務」と「努力義務」ではたった二文字の違いだが、中身は雲泥の違い。そこらじゅうでマスクをしない人間が続出で、あっという間に感染症が広がっていくが、法案を修正するためには次の国会を待たねばならない……。
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