VTuberたちは1年でどう変化した? 3人の識者が振り返る、2024年のバーチャル業界(前編)
バーチャルであることは“効果的であるか”
――全体を振り返ると、アバターの姿や、VTuberがLive2Dモデルを身にまとうことがニュートラルに受け取られていて、だから実写の手が出ても違和感はないし、同時にVTuberの姿で活動している時もその人である、と捉える層が増えたということになりますね。こうした変化は昨年も指摘されていましたが、今年は活動を発信する側からも顕著になってきているのかなと。 たまごまご:あまり意識しなくなったファンに対し、発信者はかなり意識して戦略を立てていますよね。それこそ、花譜さんと廻花さんの流れは顕著だと思います。表現者として「廻花」を分けた一方で、「花譜」はキャラクターとしてゲームに出演しています。僕、ゲームに出ている花譜さんにめちゃめちゃ違和感があるんですけども(笑)。いずれにせよ、キャラクターを作ろうっていう企業の動きは強く感じます。ホロライブも『魔法少女ホロウィッチ!』が該当しますよね。 ――ホロライブはかなりIP軸の動きが見られますよね。 草野:ホロライブのタレントビジュアルを使ったIP戦略の動きは、自分は「キャラクター化」ではなくて「ビジュアルを使っている」と捉えてます。本人と紐づけたキャラクター化戦略というよりも、本人たちのビジュアルを使ってグッズを作っているだけ。実はそこに本人性はあまり強く現れていないとも僕は思ってます。 ――初期VTuberたちがやっていたことが「キャラクター化」だとすれば、その逆である「IP活用」として動いてるんじゃないかという指摘ですね。 浅田:香取慎吾さんに対しての「慎吾ママ」みたいなあり方ですね。 たまごまご:たしかに。バーチャルタレントはタレントとしてありつつ、そのビジュアルはグッズ化したり、キャラクター化したりするよってことですよね。 草野:そこからさらにひねりを加えてるのがKAMITSUBAKI STUDIOですね。今年、KAMITSUBAKI STUDIOはバーチャル舞台劇『御伽噺』を上演したんですが、出演するタレントたちのビジュアルをうまく舞台劇用になおしつつ、名前だけ変えて出演・演技をしているんですよ。 このとき、ひねりが何回起きているように見えるかは、世代によって違うと思います。若い世代は、花譜さんは“PALOWさんのビジュアル”で活動しているので、ときには名前を変えるし、似たようなビジュアルになることもある。なので、ひねりは1回で済みます。 でも、長くシーンを見ている世代には、「名前のないオリジン」が「花譜」を名乗り、その「花譜」が名前を変えたうえで演劇をやっているように見えている。つまり、姿や名前を変えているというひねりが2~3回と生じているように見えるんですよね。 たまごまご:花譜さんの場合は、本人が悩んだからこそ表現者としての「廻花」が生まれたとも聞きますよね。そうしたあり方は、奏みみさんや、長瀬有花さんにもあてはまりますね。そのような表現者が増えたことを踏まえると、実写もやっているVTuber……あおぎり高校や、極端な例では従井ノラさんが分かりやすいですよね。どっちもやるよ、どっちも楽しいよって。 草野:長瀬有花さんは今年インタビューさせてもらいましたが、「もはやバーチャルがつかない、ただ1人のシンガーだと思っています」と話されていて、彼女本人的にはバーチャルとかそういうのはあんまり意識しないで、一人のシンガーとしてやっている、というスタンスでしたね。リアルの自分の体を出すか、アニメーションとしてのバーチャルの姿を出すか、そこも表現のうちの一つとして捉えてました。なので、活動の時々において使い分けていくんでしょうね。実際、最近のライブはご自身のリアルな体をバッチリ出していますし。 〈参考:PANORA https://panora.tokyo/archives/94405〉 ――奏みみさんも、「画面を飛び越えてみんなに会いに行きたい」と言及して“人間の姿に変身”という形で生身での活動を始められていましたね。 浅田:表現方法の違い、下手したらドレスコードの違いぐらいの捉え方なんだろうなと感じますね。「この表現を仕掛けたいときは、この装いが一番効果的」といった考え方なのかなと。 草野:あと、さまざまな場に出ていくときの、リアルなタレントさんとの差異も重要かなと思います。例えば、長瀬有花さんが『ミュージックステーション』に出演するとして、単純に歌うだけだと他の出演者と変わりなく見えてしまいますが、ステージ演出として、突然実写から3Dアニメーションのビジュアルに変身したら、面白くないですか? たまごまご:面白いし、そっちの方が引きありますね。 草野:そういうことも踏まえた上での、2つのビジュアルの使い分けなのかなと。いろんなビジュアルや表現方法があるんだから、それは狙ってやっていった方がいいですよね、といった考え方なのかなと思います。 たまごまご:その路線でずっと活動している方だと、七海うららさんとかはまさにそうですよね。どちらかを選ぶのではなく、表現できるところがいっぱいあった方が良い、といった考え方。 〈参考:avex https://avexnet.jp/column/1000764〉 ■既存の枠組みを超えたVTuber所属 たまごまご:次に、「既存のバーチャル事務所ではない企業がバーチャルタレントを所属させた」というトピックについて話したいですね。 浅田:具体的にはREJECTにVTuberの方々が加入した件ですかね? 草野:あとは数年前から継続しているソニーも当てはまりますね。ソニーのバーチャルタレント事業は、順調に人が増えた後、人員整理によってVEEへ一括所属に至りつつ、何名か卒業者も発生しました。その際、卒業者にキャラクターを譲渡して、個人活動を継続させていますよね。 浅田:VEEは設立当初の方針にちゃんと従って運営されている点が偉いですよね。 草野:ソニーだからこそできるパワープレイ、という印象はありますけどね。あとは、音楽のメジャーレーベルがVTuberの新曲を出すケースも多くなりましたよね。エイベックスのmuchoo所属の七海うららさんはもちろん、キングレコードが関わるRK Musicなどもそうかなと。所属しているVESPERBELL、HACHIの2組が今年メジャーレーベルからデビューしました。あと、FZMZもその一例ですかね。 たまごまご:それと、ChumuNoteさんが所属したレメディ・アンド・カンパニーも。最初「なぜ医療系の企業が!?」と思いましたが、インタビューでお話を聞いたとき、担当者の方がすごくちゃんと考えていらっしゃっていて。いいなと感じましたね。 草野:まあでも、一番のトピックはやっぱりREJECTですよ。赤見かるびさんが所属したCrazy Raccoonも、もしかすれば今後VTuberさんを加入させることもありえますよね。FPSはブームがすこしずつ落ち着きつつあるように見えますが、『ストリートファイター6』がいま盛り上がっていて視聴者数が急増している。そこに目をつけてREJECTがVTuberを大量起用したというならすごい大きな展開ですよね。 浅田:Crazy Raccoonの赤見かるびさん起用や、REJECTのVTuber大量起用も、VTuberとリアルのストリーマーを区別せず、「Twitchでイケてるゲーム配信者がたまたまVTuberだった」くらいの温度感なのかなとは思いますね。 草野:僕も同じくタレントとして面白いから起用しただけの話なのではないか、と思っています。VTuberなのでリアルの体はあんまり見せられないかもしれないけど、配信自体はすごい面白いので、採用したのかなと。 たまごまご:いまREJECTのWEBサイトを見てみたのですが、ハイタニさんと天鬼ぷるるさんが一緒に並んでて、特に注釈も書いていない。キャラクターを持って活動しているストリーマーも一緒に並んでるから、マジで境界線がない。これいいですね。 〈参考:REJECT https://reject.jp/teams/〉 浅田:良い意味で“バーチャルの特権性”が効力を失いつつありますね。アバターを採用するかどうかも含めて、ストリーマーのクリエイティブ性として一つ受け入れられてるのかなって思うと、昨年の対談の最後で口にした「VTuberという言葉が融けてなくなる日が来るかもね」って未来予想が、かなり具体性を伴ったXデーとして近く訪れるのかなと感じるほどに。