「富岡製糸場」管理費用は多額でも、来場者数はピークの1/3以下…。<世界遺産登録は万能の妙薬>という誤解 アレックス・カー×清野由美
◆世界遺産登録は「妙薬」ではない ユネスコサイドの流れは4段階を踏んで進みます。 1、世界遺産に登録される、あるいは登録運動が起こる。 2、観光客が押し寄せて遺産をゆっくり味わえなくなる。 3、周辺に店や宿泊施設が乱立して景観がダメになる。 4、登録地の本来の価値が変質する。 そして、場合によっては最後にもう一つの段階が加わります。 5、一時、流行った後、客が急激に減り、観光を期待した町が苦戦する。 日本では、ユネスコによる世界遺産登録を、地方を甦らせるための「万能の妙薬」のごとく、とかくありがたがる風潮があります。 しかし実際は、ユネスコによる世界遺産登録がうわさされただけで、人々が押し寄せ、管理が行き届かなくなる事態が生まれており、さらにはそうした人たちが一気に増えたり減ったりすることで、地域がダメージを被る、という問題まで起きているのです。
◆富岡製糸場来場者数の推移 観光振興をテーマにしたある集まりで、群馬県から来た人と話す機会がありました。群馬にある世界遺産といえば、2014年に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」が有名です。 観光客が大勢並んでいるニュースを見ていましたので、「世界遺産に登録されたらされたで、大変なことですね」と話しかけたところ、相手の方からは「いや、もう熱は冷めました」と意外な返事が返ってきました。 事実、『読売新聞』の記事(2018年6月25日朝刊)によると、富岡製糸場は世界遺産に登録された14年、年間133万7720人もの来場者がありましたが、2年後の16年度にはそこから4割減少し、17年にはついに半数以下に落ち込んだそうです。 富岡市の発表によると、その後、コロナ禍の20年度には17万人台までさらに落ち込み、そこから22年度に31万人ほどまで持ち返したものの、ピーク時に比べるとなかなか厳しい状況と思われます。 人口約5万人の富岡市にとって、富岡製糸場が持つ観光的な価値は財政面でも地域維持の面でも大変に重要です。一方で世界遺産登録を維持するため、その修復・管理にかかる費用はこの先10年で100億円にも上るとされています。それなのに、その原資となる入場者数が下降線を描いていることで、目算が大きく狂い始めているのです。
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