「圧電MEMS」市場拡大に期待、ファウンドリーの投資が加速している
圧電材料による微小電気機械システム(MEMS)受託製造(ファウンドリー)各社が、事業拡大に向けて動き出している。I―PEXが2026年初頭に受託製造能力を現状比5―10倍に高め、住友精密工業は米社との合弁会社からMEMSファウンドリー事業を譲り受けて投資を加速。ロームはインクジェットヘッドでの実績を強みに、事業領域の拡大を狙う。圧電MEMSではミラーやスピーカーなど新しい用途が登場しており、市場拡大への期待が高まっている。(京都・友広志保) 【写真】ロームのゾルゲル成膜 「営業活動をしなくても引き合いが来る」と、I―PEXピエゾソリューションズ(山口県宇部市)の緒方健治最高経営責任者(CEO)は打ち明ける。同社はコネクターが主力のI―PEXが23年に設立した子会社。圧電MEMSのファウンドリーを手がけており、小郡工場(福岡県小郡市)の既存建屋をクリーンルームに改修し、26年初頭に稼働する。投資額は数十億円。布やフィルムに印刷する工業用プリンターのインクジェットヘッドに加えて、ウエアラブル機器への搭載が拡大しているという。 圧電MEMSは、もともと圧力を加えることで発生する電気を捉えるセンサーの用途がメーンだ。逆に電圧を加えれば圧電膜の形状が変形し機械的な動きを実現できる。これまでアクチュエーター用途ではインクジェットヘッド向けが大半だったが、圧電材料のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に関する技術進歩とともに、イヤホンに搭載される超小型スピーカー振動板や、高性能センサー「LiDAR」などでレーザー光を制御するミラーといった新しい用途に広がり始めた。I―PEXが新規事業としてMEMSの研究に着手したのは15年だが「当時と異なり、現在は市場拡大を感じている」と緒方CEOは話す。 住友精密工業は自動車向け高性能センサー用途などを開拓する(MEMS設計) 住友精密工業は英国でMEMSを製造販売する合弁会社から切り出したファウンドリー事業を譲り受け、23年12月に立ち上げたMEMSインフィニティー部で引き継いだ。同社幹部は「圧電MEMSはファウンドリー各社が注目しており、成長市場であることは間違いない」とし、30年までに数十億円規模を投じて生産能力を現状比で数倍に拡大する。人員も現状比約5倍の100人以上に増やす計画だ。 ロームはインクジェットヘッドの共同開発や量産で長年にわたる実績を持ち、子会社であるラピスセミコンダクタ(横浜市港北区)の宮崎工場(宮崎市)にMEMS専用ラインを構築している。担当者は「スピーカーやミラーの市場が立ち上がってきた」と期待をかけ、すでにマイクロミラーやスピーカーなどの試作実績もある。PZTを塗り焼き固める工程を繰り返す「ゾルゲル法」による成膜が強みで、アクチュエーター用途で不可欠な大きな変位量と、絶縁破壊が起こりづらい耐圧性を両立した。事業領域を拡大しMEMSファウンドリー事業を本格化する構えだ。