浅井健一が語る、人生で一番大事なもの、社会や経済を批評的に考える重要さ
ここに来てお客さんが増えてきてる
─アルバムの話に戻すと、「Fantasy」という社会性のある楽曲がある一方で、「HUNDRED TABASCO AIRLINE」「うさぎのドアマン」の異世界へ誘われるような楽曲もすごく魅力的でした。 浅井:そうだね。みんな想像するから、楽しいかなと思って。 ─「うさぎのドアマン」をお聴きして、勝手にティム・バートンが作る映画の世界観にも通じる雰囲気を感じました。 浅井:まあ、そんな感じはするね。うさぎのドアマンっていうのは初めてかもな。まあ、いろいろうさぎが出てくるけど、「不思議の国のアリス」とか。でも、アレはドアマンじゃないもんね(笑)。 ─過去にティム・バートンと対談されたことがありましたよね? 浅井:うん、あの時、ちょっと前に『ビッグフィッシュ』という映画を観たんだわ。それがすごいよくて。その話がきたから、是非話したいと思ったんだけど、向こうはそれじゃない映画のプロモーションで来ていたんだよね。だから盛り上がらなかった。 ─ハハハ! 記事の中では盛り上がってましたよ。 浅井:ハハハ、盛り上がってるように見えた?(笑)。それならよかったな。 ─対談の中でティム・バートンが「知的レベルじゃなくて感覚レベルで生み出した方が、自分の中の感性を純粋に反映できる。真のアートは体の内側から出てくるもの」という考えに共感されていましたね。 浅井:よく覚えてるね。 ─「うさぎのドアマン」も感覚的な部分が強かったですか? 浅井:いや、感覚だね。まず、あのメロディーが気に入って。このメロディーを表すのは、「うさぎのドアマン」かなって。みんなでスタジオに入って熱中しながら「ここはどうしよう」と色々必死になって作ってるっていう、ほかの曲もみんな同じだけどね。そういう日々でしたね。で、この曲の転調するところは、(小林)瞳ちゃんのグッドアイデアだったね。 ─「HUNDRED TABASCO AIRLINE」は「うさぎのドアマン」と違ったアプローチで、音の中に絵があると言いますか。これから飛行機が飛び立っていく臨場感が、歌詞だけでなく音でも表現されていて、引き込まれました。 浅井:うん、ありがとう。曲が先にできておりまして、これにどういう歌詞をつけたらいいのかしばらく悩んでおりましたが、「『「HUNDRED TABASCO AIRLINE』で行くか」とある日思いまして。自分で勝手に航空会社を作りましたね。 ─<ギンガムチェックの機体は 屋上プールあるぜ 雲の上で飛び込むのは わけが違うぜ 行き先は 君の深層心理 もしくは 近未来のジェットシティ Oh My God まもなく離陸さ>ですね。「HUNDRED TABASCO」は、2022年のツアータイトルにもなっていましたね。 浅井:昔はなってましたね。この間のツアーは「Thousand Tabasco Tour」だったんだけど、「HUNDRED TABASCO」に戻しました。で、今回はタオルもあるので。よかったらプール付きの飛行機が乗ってるんで。 ─個人的には、浅井さんの画集やそれこそグッズにも描かれている<ミスタースヌーピン>が歌詞に出てきたのは、個人的に嬉しかったです。 浅井:クレームは来ないと思うけどね。 ─ふふふ、ファンはスヌーピンを認知していますから。 浅井:ね。やっぱり、ここに来てお客さんが増えてきてるってことがあって。このツアーもまた前回よりも増えて、それが嬉しいかな。だから59歳にして、ずっと横ばい状態だったんだけど、今年から増えだしたのは何でだろう? AJICO効果? ─あとは、SHERBETSもアルバム『Midnight Chocolate』をリリースしたり、ツアーがあったりと活動が盛んでしたもんね。 浅井:そうだね。でも、今年に入ってからなんだよね。SHERBETSは去年までだったんで。うん、喜んでおります。 ─アルバムの最後に収録されている「けっして」をお聴きしたときに、僕は自分の人生を見つめ直したし、どう生きるかの道しるべを歌っているように感じました。 浅井:今35歳でしょう? まだ分からんでもいいと思う。これは60歳ぐらいの人に向けた曲なんで(笑)。でも、もちろん好きだって思ってもらえるの一番嬉しいんだけど、そこまで深く考えなくても、これは高齢者向けの曲っていうか(笑)。 ─高齢者向けの曲(笑)。 浅井:高齢者というか、まあ50過ぎの人用に…そんなことないか。万人に聴いてほしいかな、やっぱり? なんか、自分の素直な気持ち。 ─「けっして」はカズオ・イシグロの『日の名残』のラストシーンを想起させるんですよね。桟橋のベンチに座って美しい夕陽を見ながら、老人が「夕日は1日の中で一番美しい時間ですよ。過去を後悔していても仕方がない。前を向いて幸せに過ごしましょう」みたいに話す、あのシーンが思い浮かびました。 浅井:ああ、まあそうだよね。それは自発的に読んだの? ─前に、浅井さんが『Night Chocolate』でオススメされていたので読んでみました。 浅井:ああ、そっかそっか。『Night Chocolate』ね、今週またやるよ。明後日(※インタビューは9月上旬に実施された)収録するんで28日に流れるかな。そこで(「けっして」も)かかるから。