円安だから株高という「因果関係説」に疑問 現状は「同時進行説」が有力
テレビや新聞で「外国為替市場で円安が進行したことから輸出企業の業績が拡大するとの見方が広がり、東京株式市場では日経平均株価が上昇しました」――このように報じられていることがあります。何ら違和感のない解説に思えますが、こうした円安→企業収益拡大→株価上昇という因果関係に一定の疑いを持つべきです。円安で輸出企業の業績が潤うのは事実ですが、株価上昇の説明として通貨安を主因にするのは、本質的ではないと筆者は考えます。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
「通貨安→株高」は世界でも少数派
まず認識しておくべきことは(1)「通貨安・株高」という関係が成り立つのは日本とスイス、そして2014年のマイナス金利導入前後から2016年半ば頃までのユーロ圏(特にドイツ)といった具合に少数派であること、(2)日本と同様に製造業の存在感が大きく非資源部門の輸出ウェイトが高い韓国でさえも「ウォン高・株高」の関係にあること、そして(3)2000年代前半の日本でも「円高・株高」の関係にあったことです。 (1)についていくつかの主要国の相関係数を確認すると、日本とスイス以外の国々はマイナスとなっています。このことは、それらの国々では「通貨高・株高」「通貨安・株安」という関係が成立することを意味します。冒頭の解説にあったように「通貨→株式」という順序で因果関係が成立すると考えるのであれば、通貨安が株式(企業収益)に悪影響を与え、通貨高が株式(企業収益)に好影響を与えるということになります。こうした「因果関係説」は、輸入超過、すなわち貿易収支(或いは経常収支)が赤字の国であれば、通貨高が国全体(≒上場企業全体)のコスト削減などに繋がるため、ある程度の説得力がありますが、図1に掲載した相関係数がマイナス国のうちいくつかの国(韓国、タイ、ノルウェー)は貿易黒字国ですから、話はそう簡単ではありません。ただ、少なくとも「通貨安→株高」という因果関係に疑いの余地があることは確かです。