なぜ会社で「人間関係のトラブル」が絶えないのか「単純な理由」
根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。 【写真】知ったら全員驚愕…職場をダメにする人の「ヤバい実態」 私がメンタルヘルスの相談に乗っている食品メーカーで、50代の男性社員が30代の男性社員の胸ぐらをつかみ、「ふざけるな。俺の話をちゃんと聞いとけ」と怒鳴った。その部署の上司が驚いて、こんな騒ぎになった事情を双方それぞれに尋ねたところ、この騒動には、別の50代の男性社員、Aさんがからんでいたことが判明した。Aさんが、胸ぐらをつかんだ男性に、30代の男性社員が愚痴をこぼしていたのを聞いたと告げ口したのだ。
「○○さんが~と言っていた」と吹聴する常習犯
胸ぐらをつかんだ男性は、仕事上のミスを減らすための勉強会を主宰しており、それに胸ぐらをつかまれた30代の男性も参加していた。あるとき、胸ぐらをつかんだ男性が、同期のAさんに誘われて二人で飲みに行ったところ、Aさんから「(胸ぐらをつかまれた男性が)『勉強会なんかやってもミスは減らないのに、出るように勧められるので面倒くさい』と愚痴をこぼしていた」と聞かされたという。 そのことに胸ぐらをつかんだ男性はカチンときていたのか、例の30代の男性が大きなミスをした際に、つい激高して乱暴なふるまいをしたというわけだ。ちなみに、上司が30代の男性にそれとなく尋ねたところ、そんな愚痴をこぼした覚えはないと答えたらしい。 もちろん、誰かが嘘をついているのかもしれないし、自分に都合のいいように事実を少々歪曲しているのかもしれない。録音していたわけではないので、結局は「言った」「言わない」の水掛け論で終わってもおかしくない。 だが、以前Aさんと同じ部署にいたことがある社員からも話を聞いたところ、Aさんの「○○さんが~と言っていた」という発言のせいでもめたことも、喧嘩になりかけたことも何度もあったことがわかった。 Aさんは一見温厚そうで、いつもにこにこと笑顔なので、つい気を許していろいろ話してしまうのだが、後で自分が言った覚えのないことを「○○さんが~と言っていた」と吹聴されていたと知り、驚いたという社員が何人もいたのだ。 たとえば、女性が二人しかいない部署で、誰もやりたがらない雑用を20代の若い女性社員にやらせればいいと30代の女性社員が言っていたと、Aさんが発言したことがあるそうだ。その話をまた聞きした20代の女性が30代の女性に「どうしてそんなこと言うんですか」と詰め寄ったという。それに対して、30代の女性は「そんなこと言ってないわ」と怒り出し、大喧嘩になったらしい。 この場合、Aさんには雑用を20代の女性に押しつけたい思惑があったが、それを自分自身の意向として伝えると、恨まれそうだったので、30代の女性が言ったことにして責任転嫁した可能性が高い。 あくまでも自分は"いい人"のふりをするために、30代の女性を憎まれ役に仕立て上げようとしたわけで、似たようなことは誰でも多かれ少なかれやっているかもしれない。たとえば、おもちゃを買ってほしいと駄々をこねる子どもに母親が「お父さんの許しがないと買えない。お父さんは厳しいから、たぶんダメだと言うと思うよ」と言って、あきらめさせようとするのは、よく使う手だろう。 あるいは、部下が嫌がりそうな仕事を押しつける際に、上司が「これは上の命令だから仕方がない。会社の方針として、どうしても君にやってほしいということだ」と言って説得することもあるかもしれない。上司が部下から恨まれたくなくて、自分より"偉い人"や会社を憎まれ役に仕立て上げるわけである。 一方、「勉強会なんかやってもミスは減らないのに……」と30代の男性が愚痴をこぼしていたという嘘の話をでっち上げ、50代の同僚に伝えたことに、雑用を押しつけたいといった類いの思惑があったとは考えにくい。それでは、あえて不和の種をまくようなことをAさんがしたのは一体なぜだろうか。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)