阿部寛主演『ショウタイムセブン』の撮影現場に潜入!「いま世の中に出すべきものに仕上がった」という本作に込められた、制作陣のこだわりとは
韓国で大ヒットを記録したソリッドスリラー『テロ,ライブ』(13)を原作に、「岸辺露伴は動かない」シリーズを手掛けた渡辺一貴監督がオリジナルの展開を大幅に盛り込んだ『ショウタイムセブン』(2月7日公開)。ラジオ番組にかかってきた1本の電話から始まるノンストップサスペンスである本作で主演を務めるのは、2025年にキャリア40年を迎えるベテラン俳優、阿部寛。そのほかにも竜星涼、生見愛瑠、井川遥、吉田鋼太郎といった豪華俳優陣が集結している。 【写真を見る】シャツに血がついたまま生放送を続行…テロリストと1人で対峙する元人気キャスター、折本を演じた阿部寛 MOVIE WALKER PRESS編集部は、2024年の7月に都内で行われた撮影現場に潜入。井手陽子プロデューサーのインタビューとともに、細部までこだわり抜かれたセットの様子や撮影の模様をお届けしていく。 ■防犯ポスター、スケジュール表…細部までこだわり抜かれたスタジオセット 元人気キャスター、折本眞之輔(阿部)がナビゲーターを務めるラジオ番組にかかってきた、謎の男からの犯行予告ともとれる電話。そして、その直後に起きた、発電所での爆破事件。かつて国民的ニュース番組、「ショウタイム7」を担当していた折本を交渉人として指定した犯人は、折本に次々と過剰な要求を押しつけていく。突然番組に訪れた危機を、「ショウタイム7」への復帰に繋げるチャンスだと捉えた折本は、極限状態で犯人との生放送を始めるが…。 架空のテレビ局、“NJB”のニュース番組「ショウタイム7」が収録されるセットは、まさに誰もが想像するスタジオそのもの。NHKで実際にテレビ番組を担当していたという渡辺監督の経験や知識が、セットの細部にまで反映されているのが伺える。シックな木目調で統一されたスタジオの中央付近には、大きな流線形のモニター。海外の雰囲気が漂うステンドグラスやアーティスティックなオブジェによって、全体的に高級感がありながらも、和風の照明によって絶妙に和洋のバランスが保たれており、セットからも「ショウタイム7」の格式の高さが感じられる。 撮影が始まってまず気づかされたのは、カメラの台数の多さ。現場にある合計5台のカメラのうち2台は映画用のカメラで、残りの3台は「ショウタイム7」のためのカメラ。番組用として配置された3台のカメラには、普段テレビ番組を撮影している本職のカメラマンがついており、撮影も実際に行っている。つまり、カメラマンを撮るカメラマンがいるのだ。番組スタッフと映画のスタッフが同じ空間に同居しているという二重構造になっているため、時折現場においても両者を勘違いしてしまうようなケースもあったとのこと。制作陣の徹底ぶりが伺えるが、こだわりはそれだけではなかった。「ショウタイム7」の番組スタッフ用のジャンパーは言わずもがな、スタジオセットの入口にはNJBラジオの防犯ポスターが貼られ、スタッフの手元には劇中の1日のスケジュール表まで用意されていた。このスケジュール表が本編で映り込むことはないが、見えない部分にまでディテールを追求した現場だからこそ、本当に番組が存在しているかのようなリアリティや思わず息をのむような臨場感の演出に成功しているのだろう。 ■“ライブ感”が追求された撮影現場 この日撮影されたのは、折本が「ショウタイム7」のスタジオを乗っ取り、特殊部隊が犯人の住処と思われる場所に突入する様子を生中継で見守る、作中でもトップクラスの緊迫シーン。スーツ姿で現場に登場した阿部の表情は、すでに“折本モード”に入っており、より一層現場にも緊張感が走る。先日行われた本作の完成報告イベントでも「キャスター役は避けていた」と語っていた阿部は、撮影の合間にも監督と頻繁にコミュニケーションを取り、細かい所作や段取りのすり合わせを行っていた。 竜星と生見も現場に加わり、いざ撮影が始まると、現場の緊張感はMAXに。劇中時間と実際の時間が一致したリアルタイム進行型の作品ということもあり、まわりで撮影を見守る人たちを含め全員が、“極限状態の現場に居合わせている”感覚を共有しているような、独特な一体感が生まれていた。電話で折本と会話している犯人役の未解禁キャストも別ブースで同時に演技していたり、撮影機器を制御している副調整室でもディレクター役のキャストが演技していたりと、撮影現場においてもライブ感がどこまでも徹底されている。なお、本来は中継先のみでの撮影となる記者役の井川もスタジオ撮影の場に訪れ、ほか俳優陣と生で声を合わせることにより、中継とスタジオを繋ぐ会話により一層の緊張感を生んでいた。 ■「渡辺監督のおかげで、いま世の中に出すべき作品に仕上がったと思います」 原作となる韓国映画『テロ,ライブ』の設定やリアルタイム進行という特徴を踏襲しつつも、オリジナル要素も加え、日本版としてリメイクされた『ショウタイムセブン』。本作の制作に至った経緯について、井手プロデューサーは「まずは『テロ,ライブ』のコンセプトが本当におもしろいなと思って。あるところに閉じ込められて、その場から動けないまま危機的状況に立ち向かっていくという物語に、韓国なりの社会性を盛り込んでいるのがいいなと思いました。原作の公開から10年近く経って、メディアと視聴者の関係性も変わってきたいまの日本で、同じコンセプトで作品をつくるとなった時に、同じような話になるんだろうかという疑問から、本作の企画がスタートしました」と振り返る。 井手プロデューサーと『ショウタイムセブン』を手掛けた渡辺監督との出会いは、2023年に公開された同監督の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。依頼については、「テレビ番組を実際につくったことがあって、リアルな感覚をもっていて、会話劇が中心になる物語にエンタメ性とリアリティを持ち込める方にお願いしたいと思った時に、渡辺監督がピッタリだと思いました。本作のお話を監督にした際にも、社会風刺の要素を含んだような作品は大好きと仰ってくださいました。元々別の方にお願いしようと思っていた脚本も、監督自ら書いてくださるというお話になり、そのおかげで想像していたものとは違った要素も盛り込まれて、いま世の中に出すべき作品に仕上がったなと思っています」としみじみ。 ■「(観客のみなさんには)最後まで犯人の声に翻弄されてほしいと思っています」 シチュエーションが限定されている、舞台のような会話劇となった本作について、「実力のある俳優でないと成り立たなかった」と語る井手プロデューサー。主演の阿部については「阿部さんしかいないなと思っています。犯人に振り回されながらも対峙していく折本というキャラクターは、(折本の)周りの人物や視聴者までも巻き込んでいく役柄。カリスマのようなエネルギーをもった役ということで、阿部さんほどパワーのある方はいないし、ハマり役だなと撮影中にも感じていました」と満足のいくキャスティングだったことを明かした。 折本降板後の「ショウタイム7」でキャスターを務める安積征哉役を演じた竜星については、「過去に舞台を観に行かせていただいた時に、舞台上での輝きや瞬発力がすごくある方だなと思いました。今回は阿部さんに対峙できる、異なるエネルギーをもった役柄ということで、その強みが存分に発揮されているなと感じています」とのこと。今回初めて現場で一緒になったという、同じく若手キャスターの結城千晴を演じた生見については、「経験豊富な面々が揃っているなかでも、物怖じすることなく、自分の役割をきちんと全うされているのを見て、若いながらも実力のある女優だなと感じました」とすっかり感心した様子。 また、「ショウタイム7」のプロデューサー、東海林剛史役として本作に参加した吉田に関しては、「舞台でシェイクスピアを長年やってこられていますし、実力は説明不要なくらい大ベテランの方ですが。本読みを全員で集まってやった時に、1人だけ音量のレベルが違ってビックリしてしまいました(笑)。本読みの時点から、ちょっとしたセリフの言い方や間合いがすばらしいと思いました」と舌を巻く。そして、公開までは明かされることのない犯人役のキャストについても、「本編を観ていたら、声で気づいてしまうかもしれませんが(笑)。最後まで声に翻弄されてほしいなと思っています」と触れていた。 ■「本作での掛け合いは、録音したもので生み出せるものではない」 撮影中は、ライブ感を大事にするために長回しも多く、「役者の方々には非常に負担の多い現場だった」と振り返る井手プロデューサー。それでもリアリティやライブ感にこだわった撮影を行ったことに関しては、次のように語った。「スタッフの方々も大変なハードワークだったかなとは思いますが…。犯人役のキャストにオファーしに行った時に、こちらからお願いする前に、『(声だけの出演シーンでも)現場にいなきゃだめだよね』と言ってくださったんです。本作での掛け合いは、録音したもので生み出せるものではないと。キャストの間で、その意識の共有が最初からできていたので、ほんの少しのセリフのシーンでも現場に来てくださっていました。中継先とのやりとも、ロケ現場には阿部さんも行き、井川さんもまたスタジオに来て、生のやりとりを実際にしていただけました」。また、キャスター役の阿部、竜星、生見らについてはアナウンサー指導も入っていたとのことだが、そこにも細かなこだわりがあったという。「それぞれキャラクターとして、キャスターになった背景も違うので、その見え方には気をつけていました。特に折本はただニュースをまじめに読むイメージではなく、記者あがりでキャスターになった設定なので、犯人と対峙するなかでキャスターらしからぬ話し方をする時はあっても、番組を成立させなければいけないという理解はもっている。そこがみなさんの目にどう映るのかは楽しみです」。 ■「メディアに対してどう向き合っていくのかは、テーマの一つにあると思います」 原作では、ラジオ局が舞台だったのに対し、『ショウタイムセブン』ではNJBという架空のテレビ局を舞台に。その意図について井手プロデューサーは「昔よりテレビの視聴率は下がっているとは言われますが、なにか緊急時に放送するとなった時にいまでもテレビは大きな影響力をもっていると思います。メディアを題材にすると考えると、テレビのほうがいまの日本にしっくりくるかなと」と語る。そしてなにより感じているのは「時代の変化」だといい、続けて「かつては発信するだけだったメディアに、現在はダイレクトに視聴者の反応が返ってくるようになり、見えなかったはずの視聴者の存在を意識する時代になっていると思うんです。そんななかでメディアに対してどう向き合っていくのかは、テーマの一つにあると思います。メディア批判を目的とした作品ではないですし、そこを本質としては考えていないですが、いろいろな角度で捉えていただいても問題ないと思っています。観客のみなさんが本作をどう捉えるのか、聞いてみたいなと素直に思います」と本作に込めた想いを明かしてくれた。 そのほか、原作とは違う本作のオリジナル要素については、「前半の3分の1ぐらいまでは一緒ですが、後半はほとんど変えています。私自身、リメイクは本や漫画と違ってすでに映像があるので、そっくりそのまんま同じことをやるのではなく、いまの日本でつくることを意識したいなと思っていて。もちろん、韓国サイドとコミュニケーションを取りながらではありますが、せっかく作らせていただけるなら、日本独自の要素をしっかり出したいなと思っていました。」と語ってくれた。 ■「劇場で観る楽しみをもつエンタメにできたらなと思っています」 それでも、あくまで「エンタメであること」を井手プロデューサーは最後まで強調していた。「SNSも当たり前な時代になり、作り手と受け手の関係性が変わってきていて、それぞれの存在は、影響を与え合い、よきも悪きも大きな力を生むことを感じていただけたら、とは思うのですが、映画はエンタメとして楽しんでもらいたいと思っています(笑)!作品の設定と同じように、映画館という同じく閉ざされた空間で、観客のみなさんも番組を観ている視聴者として巻き込まれてほしいなと。配信でも映画を観れるようになったいま、劇場で観る楽しみをもつエンタメにできたらなと思っているので、そういった意味でも、リアルタイム進行型の本作は、体験を共有できるような作品になっていると思います」。 取材・文/編集部