意外とわからない、雲はどうやってできているのか?…じつは一連のプロセスには熱力学的な物理現象が満載!
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】雲と霧、気象学的には「同じもの」なのにその「発生プロセス」は全く違った! 本記事では熱力学編から、 熱力学第二法則などについてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。 ---------- 熱力学は電磁気学とは別の意味でわかりにくい。電磁気学のわかりにくさは、電荷や電場を実感できないことに由来するが、熱力学が扱う熱は、しっかりと体感できる。熱力学の難しさは、熱が感じられないからじゃなく実体がないからだ。 そこで第3部では具体的な現象を説明してその裏に熱力学的な考え方がある、という筋立てにしてみた。熱力学が関係するもっとも日常的な現象として雲から始める。その次に圧力というやっぱり我々が感じることはできるが、そのしくみがよくわからないものについて、水圧を例に説明する。 熱力学が難解と思われても致し方ない。なにしろ高名な物理学者たちも長い間「熱素」というありもしない物理量の存在を信じていたくらいだ。にもかかわらず第3部では、無謀にも、熱力学の最難関といわれる「熱力学第二法則」を現代的な視点で説明する。その醍醐味を触りだけでも感じてもらえたら望外の喜びだ。 ----------
雲はなぜできるのか
「雲はなぜできるのか?」 小中学生向けの科学啓蒙書には必ずといっていいほど登場する素朴な疑問である。 雲は、大気中の水蒸気が冷却、凝結してできた、小さな水滴や氷の粒が集まって空中に浮遊しているものだ。水滴や氷の粒の直径は約0.003~0.01mm。これはヒトの赤血球と同じくらいのサイズだが、大量に集まると、太陽の光を散乱して白く見える。これが「白い雲」の正体だ。 大気中に浮遊する水滴や氷の粒の"原材料"は、大気中にある水蒸気である。水蒸気を含んだ空気が冷やされると水になり、水滴や氷の粒を作る。キンキンに冷やしたビールをグラスに注ぐと、グラスの表面に水滴ができるが、これと同じ現象が大気中で起きていると考えるとわかりやすい。ビールの場合はグラスの表面に水滴ができるが、雲の場合は目に見えない小さな塵の塊が水滴の核になる。 空気が含むことのできる水蒸気には限度がある(飽和水蒸気圧、後述コラム参照)。一般に、地表や水面付近では、大気の温度が高いため、大量の水蒸気を含んでいる。こうした水蒸気を多く含んだ空気の塊が、太陽光によって暖められた地表からの熱によって上昇、その後、冷やされて、大気中に含まれる水蒸気が、水滴や氷の粒となり、雲となる。 「雲のでき方」を駆け足に説明すると、こんな感じになるが、実は一連のプロセスには、熱力学的な物理現象が満載されている。そこで、第3部の導入として「雲のでき方」を熱力学の視点で解説してみたい。