「移民」や「LGBTQ+」日本に迫りくる“多様性の波”…「多国籍国家」台湾から学ぶ共存するための秘訣
コロナ禍において国民全員にマスクを配布するシステムをわずか3日で構築し、世界のグローバル思想家100人にも選出された若き天才オードリー・タン。自身もトランスジェンダーであるタン氏が、日本の若者に向けて格差やジェンダー、労働の問題からの「解放」をわかりやすく語る『自由への手紙』(オードリー・タン著)より抜粋してお届けする。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 『自由への手紙』連載第32回 『オードリー・タン「私にとってAIは脅威ではない」…断言の根拠となった天才の思考法とは? 』より続く
台湾の外国人コミュニティ
台湾に住む外国人にとって、英語は同じ台湾の地域言語よりもずっと受け入れられやすいものです。特にアメリカやヨーロッパ、アフリカから来た人たちにとって、英語が使えることは、台湾にとどまる要因になるでしょう。 現在は就業ゴールドカードを利用した人たちのコミュニティも生まれていて、その数はすでに100人以上。彼らは自分たちと同じように台湾に留まる人を増やそうとしています。 このコミュニティは私たちの公共サービスもよく見ていて、道路標識のようなシンプルなものについても「正しい英語が書かれているか」といったチェックをしています。 こうした働きかけで、さまざまに異なる文化背景をもつ人たちにとって、インクルーシブな環境ができあがっていきます。 台湾は異なる文化をもつ20もの台湾原住民、中国大陸からやってきた漢民族が共に暮らす国です。もともと20もの複数の国語があれば、そこに英語がひとつ加わったところで、大した違いにはなりません。
「国籍=アイデンティティ」?
「だから日本だって、台湾が行っていることを簡単にまねできるよ」 私はそんなふうに言うつもりはありません。 このインタビューで「国民性がより保守的で伝統的な日本では外国人を自国に受け入れることに対して消極的で、反対する空気がある」と聞きました。 ここで述べたいのは、私自身が個人的に、国籍に自分のアイデンティティを置きすぎていないということです。 「私は台湾人だ」 「私は日本人だ」 ほとんどの場合、国籍にアイデンティティを置きすぎることは有益なものだとは思わないのです。 たとえば、日本人であるインタビュアーと台湾人である私がウェブ上で行っている対話の場では、それぞれの国籍や国民性よりも時差のほうが重要です。 台湾と日本は非常に近いものの、日本は1時間先の“未来”にありますから、アポイントメントをとる際にはお互いにちょっとした注意が必要です。 台湾には二重国籍をもつ外国人もいますが、彼らはトランスカルチャーイノベーションによって、自由にオープンになった人たちです。さまざまな文化をもつトランスカルチュラルな人たちでもあります。つまり、「台湾人であること」とは、精神的なものです。