「光る君へ」第四十一回「揺らぎ」絶大な力を得た道長の歩みを正すまひろの存在【大河ドラマコラム】
NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。10月27日に放送された第四十一回「揺らぎ」では、一条天皇(塩野瑛久)亡き後、絶対的な権力者となった藤原道長(柄本佑)の姿が描かれた。 孫の敦成親王(濱田碧生)を東宮に据え、誰も逆らえないほどの力を得た道長は、三条天皇(木村達成)と権力を巡る駆け引きを繰り広げる。その中で三条天皇は、道長の嫡男・藤原頼通(渡邊圭祐)ではなく、その下の息子・教通(姫子松柾)を側近に取り立てる。 この件に関して、教通から「なぜ兄上ではなく、私なのでございましょう?」と問われた道長は「名誉なことではないか。ありがたく務めよ」と答える。だが、逆に頼通から「なぜ自分ではないのか」と問われると、「帝に取り込まれなかったことを、むしろ喜べ。お前が先頭に立つのは、東宮様が帝になられる時だ」と慰める。さらに、母親の異なる息子・藤原顕信(百瀬朔)から「われわれが公卿になる日はいつなのでございましょうか」と尋ねられると、「そういうことは、帝のお心一つだ。今少し待て」とたしなめる。 こうして息子たちを言葉巧みに操る道長の姿は、かつて道長たちを自分の権力のために利用してきた父・藤原兼家(段田安則)にそっくりだ。中でも、「お前のこともちゃんと考えておる」と言いながら、汚れ仕事ばかりを任せてきた道長の兄・藤原道兼(玉置玲央)の悲劇が強く思い出される。 また、一条天皇の第一皇子・敦康親王(片岡千之助)ではなく、孫の敦成親王を東宮に据えたことをきっかけに生じた道長と娘・彰子(見上愛)の確執も、かつての兼家と道長の姉・藤原詮子(吉田羊)の対立を思い出させるものがある。 では、道長も結局は兼家と同じ道をたどるのか…と考えてみると、一つ大きな違いがある。それが、主人公・まひろ(吉高由里子)の存在だ。まひろから、「道理を飛び越えて、敦成様を東宮に立てられたのは、なぜでございますか。より強い力をお持ちになろうとされたのは」と尋ねられた道長は、次のように答える。 「お前との約束を果たすためだ。やり方が強引だったことは承知しておる。されど俺は常に、お前との約束を胸に生きてきた。今もそうだ。そのことは、お前にだけは伝わっておると、思っておる」 ここで道長が口にした「約束」とは、直秀(毎熊克哉)の死に直面した際、まひろが「道長さまは、偉い人になって、直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような、よりよき政をする使命があるのよ」と語ったことを指しているのだろう。 またこの回まひろは、「この先も、父上の意のままになりとうはない」と、道長との関係に悩む彰子に、「ならば、仲間をお持ちになったらいかがでございましょう」とアドバイス。これを受けて彰子は頼通や藤原頼宗(上村海成)ら弟たちを呼び集め、「父上をおいさめできるのは、われらしかおらぬとも思う。父上のより良き政のためにも、われらが手を携えてゆくことが大切だ」と語り、結束を図る。これが、かつての兼家と詮子のような親子の全面対決の回避につながるようにも思える。 こうして振り返ってみると、道長にとってのまひろの重要性が、改めて見えてくる気がする。この回、敦康親王が御簾を超えて彰子と対面したことを知り、「敦康さまが、二度と内裏に上がれぬようにいたせ」と命じたところ、信頼を寄せる藤原行成(渡辺大知)から「左大臣様は敦康さまから多くのことを奪い過ぎでございます」と諫言を受けるほど道長は増長していた。その道長がこの後、どんな道を歩み、そこにまひろがどのような影響を及ぼし、「約束」を果たしていくのか。これからも注視していきたい。 (井上健一)