【菅田将暉×黒沢清】インタビュー:労働被害者の闇「ネット上で集った集団が、狂気の殺人へと突き進む」映画『Cloud クラウド』
2024年9月27日に公開された映画『Cloud クラウド』。作品と俳優陣の演技が助け合う見事な映画、その主柱2名のインタビューをお届けします。 【写真】監督・黒沢清×主演・菅田将暉の初タッグ。映画の柱である2名の貴重なツーショット
“労働被害者”が、社会で生き残るため歩むグレーゾーン
『回路』が、インターネットが深める孤立と、それでも他人とつながりたいと足掻(あが)く女性主人公の闘いを、幽霊話を通じて仄めかし、かすかな光明を見せたのに対し、『Cloud クラウド』は人間のリアリズムとディストピアを、ガンアクションを味付けにしながら銃弾に乗せて観客席にぶつけてくる。 工場労働を日々の糧にしながら、老後のため、家族をもつため、資金作りのため、ネット上で転売業を営む主人公・吉井良介は、「副業礼賛」を言い訳に、十分な給与を払わない企業が生んだ“労働被害者”の象徴だ。 そんな労働も続けながら、現状から抜け出すのに十分な額を転売業でしっかり稼ぐためには、法律のグレーゾーンを、まるで地雷原を進むようなリスクを背負って実行するしかない。しかし小売業の資格を持たないのに括弧付きの小売りで必死に稼ぐ吉井の姿と、ブランドの上がりの一部をいただきながら稼ぐステマと何が違うのか? そう凄まれれば、「確かにそうですね」としか言えなくなる。デスパレートな状態になれば、人も大手企業もグレーゾーンを進むしかない。 映画の中で、上昇志向の主人公が一発逆転を目指して選ぶ仕事であれば、少し前なら株式トレーダーでも成立しそうなものだが、「グレー」が大手を振って跋扈する今、「転売」はまさに、現代日本映画らしい選択だ。 「転売屋そのものにテーマを込めたわけではないのですけれども、社会の中で脱落するかしないか、すれすれのところにいる人間がそれでも何とか生き抜いていこうとしたときに、もっと“動物的”なやり方として、ただ物を誰かから買い取って売るという資本主義の典型的なやり方で身一つ、なんとか生き延びていく。現代に生きる追い詰められた人間の分かりやすいあり方かと思い、この職業にしました」(黒沢監督)