「低偏差値校→難関大」合格に導いた先生の教え。ほかの先生に理解されない中、受験指導続ける
■自信がない子供たちをやる気にさせる 有田先生の同僚の先生は、有田先生の授業を見て衝撃を受けたそうです。 「有田先生は、人の心に火をつける天才でした。『お前らはできる!』と言ったら生徒が信じ込むんです」 有田先生の言葉のどこが生徒に刺さっているのか。同僚の先生に詳しく掘り下げて聞くと、「否定の言葉もすべて肯定の言葉に変えることができる」との答えが返ってきました。 「有田先生は、勉強会の課題ができなかった生徒に対して『お前だったら、これはできると思っていたんだけどなぁ……』と返すんです。
ほかの先生なら、『この問題が解けないなら合格は厳しいよ』と言ってしまうでしょう。彼は生徒を決して否定せず、心をうまくくすぐって、ひたすらできると思い込ませるんです。 また、ほかの先生が同じことを生徒に言っても『無理ですよ』としか返ってきませんが、それは心のどこかで『難しいかもしれない』と思っていることを生徒に見透かされているからでしょう。有田先生は本気で心の底から、生徒の可能性を信じているから、生徒も本気になるんだと思います」
「くじけそうな生徒への声かけが絶対的にうまい」と同僚の先生が語る人心掌握の力が、生徒の頑張りを支えるのには必要な要素のようです。 長い間この会を続ける有田先生の考え方の根幹には、「難関校に合格することは目標ではなく、手段」という信念があります。 「どこの大学に入ったかが大事なのではありません。大学や専門学校に行っても、就職するにしても、いちばん重要なのは自分と向き合い、目標に向かって努力し、もがいていく中で、周囲の人や環境に感謝できるようになること。
そして自分に自信をつけて自分を肯定できるようになったりすることで、それを今後の人生に活かしてくれることだと思っています。受験とは、自分と向き合う大切な機会の1つだと思います」 ■進学実績だけを目標にしない 進学実績だけを目標にしないことで、生きていくうえで大切な気づきを得られ、それが、結果的に進学実績の向上につながるのでしょう。 「私は、いつも生徒たちに『自分を好きになるために学び合おう』『大学進学がいちばんの目的ではなくて、大学の向こうへ行こう』と言ってきました。だからこそ、今、卒業生たちが大学に入ってから、それを体現してくれていて嬉しいです。このような状況は、どの学校にも見られない貴重な時間ではないでしょうか」
偏差値40台の「教育困難」な状況からのスタートであったとしても、生徒との距離を大切にして決して否定せず、わかるまで何度も復習を繰り返し、生徒と一緒になって勉強を楽しむ先生の姿勢が、偏差値40台の高校からも難関大輩出を可能にしているのでしょう。考え方次第で、苦痛に思える勉強も、大きなやりがいに変えられることを、有田先生は教えてくれました。
濱井 正吾 :教育系ライター